「製造業の海外移転は阻止すべきだ」と言われるとき、理由として挙げられるのは、国内雇用に対する悪影響である。
確かに、海外移転が進めば国内の空洞化が進み、国内雇用は減少するだろう。しかし、問題は、この裏命題が成立するか否かである。つまり、「製造業が国内に留まれば、雇用は確保される」と言えるかどうかである。
形式論理学が教えるところによれば、裏命題と逆命題は等価であり、元の命題が正しくても逆命題が正しいとは限らない。したがって、「海外移転が進めば国内雇用は減少する」ことが正しいとしても、「海外移転が進まなければ、国内雇用は減少しない」ことは、論理的には保証されないのである。
以下では、過去のデータを分析することにより、「仮に製造業の国内生産が拡大したとしても、国内雇用は減少し続ける可能性が高い」ことを指摘する。
この問題に関する多くの議論は、形式論理学上の誤謬に陥っているのである。
製造業は90年代の初め以降、
雇用を減らしている
【図表1】には、雇用者総数と製造業の雇用の長期的な推移を示す。
製造業の雇用は、1970年代の初めまで増加を続けて、73年には1203万人に達した。しかし、石油ショックで停滞、ないし減少した。その後、78年頃をボトムとして再び増加し、92年に1382万人になった。しかし、これがピークであり、それ以降は減少している。
2010年における雇用者数は996万人だから、ピークに比べれば実に400万人近くも減ったわけだ。年間でいえば、20万人程度の減少だ。
では、製造業の雇用は、なぜこのように減少したのだろうか?