「20代は女性について語り倒した。30代は仕事だった。40代になったら健康話で盛り上った。そして、最近は友情について静かに語っている」

 随分前、社会人になりたての頃、尊敬する大先輩が云った言葉です。酒を酌み交わしながら語る話題について率直に教えてくれたのです。大先輩は、エズラ・ヴォーゲル教授の「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」が描く昇竜の如き日本を築いてきた世代です。国際ビジネスの最前線で、脇目もふらず全力疾走し、社会的な成功を収めていました。そんな大人の男が、友情について静かに語る、というのが非常に印象的でした。

 ちょっと照れくさいですが、友情は、生涯の伴侶、仕事上の成功、健康などと並んで人生で最も大切なものでしょう。でも、寸暇を惜しんで仕事に打ち込んでいる時には、友との時間をつくるのも容易じゃない。どうしても、仕事の関係で出会った友達とばかり会うことになる。仕事を完全に離れて、本音で語ることのできる友がいるってことは、とても素敵です。

 という訳で、時には、友情について思いを致してみましょう。最良の曲は、「きみの友だち」です。原題は、You’ve Got A Friend 。キャロル・キングの作詞作曲で、非常に直裁に友情を描いています。

 “君が落ち込んで、困っていて、何事も上手く行かない時は、目を閉じて、私のことを思ってごらん。すぐに君の傍に駆けつけて、最も暗い夜だって明るくしてあげる。冬でも春でも夏でも秋でも、君は僕の名前を呼びさせすればいい。君には友だちがいるんだから……”

 ちょっと恥ずかしく赤面しそうな歌詞ではあります。ところが、キャロル・キングの書く長調と短調の間を縫って語るような自然な旋律に乗ると、知らず知らずのうちに心に沁みてくるのです。やはり天才です。28歳のキャロル・キングがどんな心境でこの曲をつくったのか興味は尽きません。