いま、「美術史」に注目が集まっている――。社会がグローバル化する中、世界のエリートたちが当然のように身につけている教養に、ようやく日本でも目が向き始めたのだ。10月5日に発売されたばかりの新刊『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』においても、グローバルに活躍する企業ユニ・チャーム株式会社の社長高原豪久氏が「美術史を知らずして、世界とは戦えない」とコメントを寄せている。そこで本書の著者・木村泰司氏に、知っておきたい「美術」に関する教養を紹介してもらう。今回は絵画のジャンルのヒエラルキー(格付)について解説。
絵画において「歴史画」の格がもっとも高い理由
皆さんは、絵画に「ジャンルのヒエラルキー(格付)」があることをご存じでしょうか? この格付けが確立したのは17世紀です。最上位には聖書や神話を主題にした歴史画があり、その下に順に人物画(肖像画)、風俗画、風景画、そして一番下位のジャンルとして静物画がありました。
歴史画の格が高いとされるのは、画家自身がまず主題を理解しなければならないからです。さらに、画面には複数の人物を配し、相応しいポーズや感情を表現し、適切な背景を描かなければならず、構成力だけでなく古代建築などの考古学的な知識も要求されます。画家も鑑賞者も、教養を持ち合わせないと理解し難いのが歴史画であり、それゆえ格も高いのです。私たちがよく知っている絵画では、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」も聖書を主題とした歴史画の一つです。同じダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」は肖像画ですから、「最後の晩餐」のほうが格は高いといえます。
これら美術の格付を知ると、より深く絵画を鑑賞することができます。たとえば、テオドール・ジェリコーが描いた「メデュース号の筏(いかだ)」は、当時の美術界から大きな批判を受けましたが、これもこの「格付」が関係しています。同作品は、ジェリコーが実際に起きたフリゲート艦メデュース号の難破事件に衝撃を受け、救命ボートに乗りきれなかった人たちに起きた悲劇的な出来事を描いたものです。当初、ブルボン復古政府はこの事件をひた隠しにしましたが、生存者の手記によって世間の知るところとなり社会的な事件となったのです。
この作品を発表した際、ジェリコーは美術界から大きな批判を受けることになります。なぜならジェリコーは、当時の美術界の常識を無視して、巨大なカンヴァスに一般市民の事件を描いたからです。たとえ悲劇といえども、庶民に起こった出来事を歴史画にしか許されない大画面で描くなど考えられない時代でした。ここからもわかるように、当時の美術における歴史画は絶対的な存在だったのです。
拙著『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』では、こうした美術に関する知識や、その背景にある欧米の歴史、文化、価値観などについて、約2500年分の美術史を振り返りながら、わかりやすく解説しました。これらを知ることで、これまで以上に美術が楽しめることはもちろん、当時の欧米の歴史や価値観、文化など、グローバルスタンダードの教養も知ることができます。少しでも興味を持っていただいた場合は、ご覧いただけますと幸いです。