「マネジメントのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない。彼らの能力と仕事ぶりが、事業の成功さらには事業の存続を左右する。マネジメントこそ、企業が持ちうる唯一の意味ある強みである」(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])
産業社会は社会として成立するか、それは社会的存在としての人間を幸せにするかとの問いを発したドラッカーが、当時世界一の自動車メーカーだったGMにおいて、一年半をかけ、すべての重要な会議を傍聴し、すべての主要な事業所を訪問して下した結論が、「成立する」「幸せにする」だった。
しかし、それには条件があった。それが“マネジメントの体系化”である。ところが、組織のマネジメントについての文献はおろか、研究さえ、ごくわずかしかなかった。それらごくわずかのものさえ、役には立たなかった。いずれも企業活動の一つの側面を取り上げているにすぎなかった。
GM研究の成果たる『企業とは何か』は、世界中でベストセラーになり、世界中の企業で組織改革の教科書になった。フォード・モーター社を救い、GE(ゼネラル・エレクトリック)を立て直した。
ドラッカー自身は、GMに続き、GEやシアーズ・ローバックの経営を指導した。ところが、その間、つまり1950年代に入ってもまだ、マネジメントについての体系的な研究や文献は現れなかった。そこで、ドラッカーが行なったことが、マネジメントの世界の地図を描き、欠けているものを明らかにし、それを自ら生み出し、体系としてのマネジメントをまとめ上げることだった。
こうして生まれた世界で最初の本格的なマネジメント書が1954年刊行の『現代の経営』であり、ドラッカーに“マネジメントの父”としての地位を与えるものだった。この本は、今日に至るも、経営者の座右の書となっている名著である。しかも、経営する者に気概を与える書である。
「マネジメントとは、現代社会の信念の具現である。それは、資源を組織化することによって人類の生活を向上させることができるとの信念、経済の発展が福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現である」(『現代の経営』[上])