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メガバンクが北米を舞台に、意外な金融機関の買収を狙っている。
今、数兆円規模ともいわれる資産の売却話が日本のメガバンクに舞い込んでいる。ギリシャを震源地とする欧州ソブリン危機の直撃を受けた欧州系の銀行が、延命のために保有資産の売却を加速させているためで、被害が軽微で相対的に資金余力のあるメガバンクが受け皿となった格好だ。
メガバンク3行は案件を精査している真っ最中である。そんななか、あるメガバンク幹部は買収案件の本命として、意外な名前を口にした。
「意中の相手は欧州系の銀行が米国に保有する地方銀行。なかでも米西部が基盤で、仏大手BNPパリバ傘下のバンク・オブ・ザ・ウエストが欲しい」。まだ売却打診はきていないが、売りに出たらぜひとも獲りたい案件だという。
メガバンクが収益拡大の重点地域に掲げるのは、いずれもアジアで、殺到する案件のなかにはアジア関連も少なくないと見られる。にもかかわらず、なぜ、同じくソブリン危機の余波に苦しむ米国の地銀なのか──。
その理由について、三菱東京UFJ銀行幹部は「もちろんアジアは大事だが、出資比率の上限などで規制が多く、一つの買収案件で大きな果実は見込めない」と解説する。その点、自由化の進んだ米国では資金さえあれば金融機関の完全子会社化も容易というのだ。
ただし、英国、カナダの銀行が相次いで米リテール部門を売却するなど、米国では外資による商業銀行の経営は難しいとされる。それでも日本勢は意に介さない。
成功事例があるからだ。三菱東京UFJ銀行が2008年に完全子会社化した米カリフォルニアの地銀ユニオンバンクがそれだ。三菱側が現地経営陣に経営を委ねることで、10億ドル近い業務純益を稼ぎ出す収益の柱の一つに成長させた。他のメガバンクも追随しようと地銀買収の検討を進めてきた。
しかもバンク・オブ・ザ・ウエストは今でこそ仏資本だが、前身は旧UFJ傘下の加州三和銀行。1970~80年代に、邦銀の米国進出の先兵として買収を繰り返し、その名を轟かせた異色の地銀だ。かつてのグループ子会社をルーツに持つこの地銀の買収は、三菱東京UFJ銀行にとっては悲願といえた。
ライバルの三井住友銀行も、ちょうど1年前に親会社の三井住友フィナンシャルグループが米国上場を果たし、そろそろ大きな実績が欲しいところ。同行幹部も「買収案件については、慎重に検討しているが、北米には魅力的な地銀が少なくない」と興味を示している。バンク・オブ・ザ・ウエストのほか、英大手RBS傘下の米地銀シチズンズなどの売却動向に目を光らせているとの見方もある。
危機がイタリア、スペインに飛び火すれば、欧州系銀行がさらなる資産売却を迫られるのは必至で、メガバンクの海外勢力図が大きく塗り替えられる可能性もある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子、山口圭介)