政府高官が発した「債権放棄」のひと言が銀行業界を揺るがしている。対象は東京電力向け融資。本誌で債権放棄が実施された際のインパクトを試算したところ、衝撃の結果が導き出された。

 5月13日、銀行業界に衝撃が走った。東京電力の原発事故賠償をめぐって、枝野幸男官房長官が突如、金融機関に東電向け融資の債権放棄を求める想定外の発言を口にしたのだ。

 これをきっかけに、東電に巨額の融資をしているメガバンク株は急落。銀行業界は大混乱に陥った。

 そもそも債権放棄とは、金融機関が経営危機に瀕した取引先を再建させるため、融資の一部または全額の返済を免除すること。金融機関としては多額の損失計上を迫られるため、メガバンクは当然、枝野発言に猛反発した。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)の永易克典社長が「非常に唐突で違和感を感じる」と不快感を示せば、全国銀行協会会長の奥正之・三井住友FG会長も「現時点で債権放棄、金利減免は念頭にない」と切って捨てた。

 大手格付け会社ムーディーズ・ジャパンからは「金融機関が債権放棄に応じたら格付けを引き下げ方向で見直す」とのコメントまで飛び出した。

 対する枝野長官は自身の発言について「(債権放棄が賠償策に関する法案提出の)条件という思いはまったくない」と、発言の修正こそ図っているものの、撤回する様子はなく、依然として債権放棄に強いこだわりがあるとの指摘は多い。官邸発の“余震”はいまなお続いており、メガバンクの業績に暗い影を落としている。

 そこで本誌は実際に債権放棄が行われた場合、メガバンクに最大でどの程度の減益インパクトがあるのかシミュレーションした。

 まずメガバンクの東電向け融資は、震災前と震災後で分けて考える必要がある。

 というのも、枝野長官が債権放棄を求めたのが、震災前の融資についてだからだ。図①のとおり、メガバンク3行は震災前から東電に対し、6000億円を超す融資残高があった。

 さらに3行は震災後の3月末、東電の資金繰りを支援するために1兆6000億円もの緊急融資に踏み切っている。東電の破綻を回避するため、政府からの要請を受けて行っただけに、ハシゴをはずされたとの不満が根強い。

 こうした融資に対しても金融市場では、債権放棄を逃れるための苦肉の策として、金利減免や返済期限を迎えた際の超低利による借り換え案が浮上していた。ただ、こうした手法でも「条件緩和債権」として、20%相当の引き当てが求められる不良債権に分類される可能性が高い。