誰でも簡単に情報にアクセスでき、「知る」ことが時代遅れになる今、私たちは何を、どう学べばいいのか。お飾りの知的武装ではなく、武器になる、しなやかな知性を身につけるには? MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。

思うに私は、価値のあるものはすべて独学で学んだ。
―― チャールズ・ダーウィン

 新刊『知的戦闘力を高める 独学の技法』は、しなやかな知性を身につけ、この世界をしたたかに生き抜くための「独学の技術」を読者の皆さんに伝授することを目的にしています。

 私は、20代を大手広告代理店で、30代を外資系戦略コンサルティングファームで過ごした後、40代に入ってからは組織・人材領域を専門に扱う外資系アドバイザリーファームで働いています。

 また、30代の半ばからは、これらの、いわゆる「本業」に加えて、ビジネススクールをはじめとしたさまざまな教育・研修機関でファカルティ(教員)として働きながら、年に数冊のペースでの書籍執筆を続け、またプライベートでは人材育成や哲学勉強会のワークショップも続けています。

 さて、そんな仕事人生を歩んでいる私ですが、これらの仕事をするために一般的に必要と考えられている科目であるマーケティングや経営学、あるいは組織論や心理学について、学校で正式に学んだことは、実は一度もありません。つまり、すべて独学です。

 私が大学の学部および大学院で学んだのは哲学と美術史です。哲学という学問についてはそれなりにイメージできると思いますが、美術史というのはどうもピンとこない、という人が多いかもしれません。

 美術史というのは、音楽・絵画・彫刻・建築といった芸術表現が、歴史的にどのように変化してきたのか、その変化は人や社会のありようとどう関わっているのかを考える学問です。

 両方とも、いわゆるリベラルアーツと呼ばれる領域に含まれる学問です。リベラルアーツが、いかにして現代を生きる私たちの「知的戦闘力」に寄与するかについては、『知的戦闘力を高める 独学の技法』で詳しく解説していますが、こと「直接的なビジネスへの有用性」という点で考えてみれば、もっとも「役に立たない」学問の代表だと言っていいかもしれません。

 そうした学問をずっと学んできた一方で、経営学などの実践的な学問については正式な教育を受けたことのない人間が、20代は広告代理店で顧客のマーケティング戦略を作成し、30代ではさまざまな企業の買収案件のデューデリジェンス(適正評価手続き)や新規事業戦略の策定を支援し、現在は日本を代表するような企業の組織開発・人材育成を支援する仕事をやっているわけです。

 このような、いわば「専攻と縁遠いキャリア」を歩むことができたのは、ひとえに独学のおかげだと考えています。『知的戦闘力を高める 独学の技法』では、このような仕事人生を通じて、私自身が試行錯誤をしながら構築した「独学の技術体系」を読者と共有します。

冒頭のチャールズ・ダーウィンの引用は、
フランス・ヨハンソン『アイデアは交差点から生まれる』より