独学を「システム」として捉える

 私は、独学をシステムとしてイメージしない限り、本書の目的である「知的戦闘力を向上させる」という目的は、達成できないと考えています。独学というのは大きく、

「(1)戦略」「(2)インプット」「(3)抽象化・構造化」「(4)ストック」

 という四つのモジュールからなるシステムと考えることができます。世の中には多くの「独学に関する本」があり、私もかつてそれらに目を通したことがあるのですが、こうした本のほとんどは「独学術」というよりも、むしろ「読書術」や「図書館利用術」というべきものでした。

 つまりこうした「独学術」の多くは、「独学のシステム」における「インプット」の項目しか扱っていないわけです。しかし、独学の目的を「知的戦闘力の向上」に置くのであれば、独学をシステム全体として捉える考え方が必要です。

 なぜかというと、システムの出力はボトルネックに規定されるからです。たとえば、どんなに「インプット」の量が多くても、「抽象化・構造化」ができなければ、そのインプットによって単なる「物知り」にはなれるかもしれませんが、状況に応じて過去の事例を適用するような柔軟な知識の運用は難しいでしょう。

 あるいはまた、たとえ「抽象化・構造化」ができたとしても、その内容が高い歩留まりで整理・ストックされ、状況に応じて自在に引き出して使うことができなければ、やはり「知的戦闘力の向上」は果たせないでしょう。

 知的戦闘力には身体能力と同じで瞬発力と持久力の両方が求められますが、インプットされた情報を臨機応変に引き出せなければ、知的戦闘力の「瞬発力」において、大きな問題を抱えることになります。

 インプットされた情報のほとんど、感覚的には9割以上は忘却されることになります。この問題に対して「いかに忘却を防ぐか」を考えても仕方がありません。

 知的戦闘力の向上を図ろうとすれば、むしろ「インプットされた内容の9割は短期間に忘却される」ことを前提にしながら、いかに文脈・状況に応じて適切に、忘れてしまった過去のインプットを引き出して活用できるかがカギなのです。

 先述した通り、これまでに書かれた独学に関する本のほとんどは(あえて「すべて」とは言いませんが)、いかにしてインプットするかという点にばかりフォーカスしています。

 しかし、イノベーションがさまざまな分野で進行し、知識の減価償却が急速に進む現在のような世の中では、こうした静的で固定的な知識を獲得するための独学法は負担が大きいばかりであまり役に立ちません。

 なぜなら、インプットされた知識の多くは短いあいだに「知識としての旬」を過ぎてしまうからです。本書が、これまでに書かれた多くの「独学に関する書籍」と違う点は、独学を「動的なシステム」として捉え、徹底的に「知的戦闘力を高める」という目的に照らして書かれているという点にあります。