札幌ドームを「ボールパーク」に
このようなアイデアの集積は、いつしかある種のダイナミズムを持って、サービスの内容・質自体にも変化を与え始めていた。「試合以外の要素でも楽しめるような総合的エンタテインメントを提供したい」という目的が明確な形を持って実現しはじめた。
その代表格が、ドームを会場としたイベントだ。午前中から施設を開放し、さまざまなアトラクションを用意して楽しんでもらうという試みだ。
2005年のゴールデンウィーク、「ファミリーシリーズ」と銘打ったイベントからそれは始まった。スタジアムの西側に飲食ブースを設営、私もブースに立ち、お好み焼きを焼いた。テラスに設置されたテーブルでは、家族が食事を楽しみながらスクリーンに映し出される選手の映像を楽しんだ。グラウンドには、「スピードガンコンテスト」などファン参加型のアトラクションも用意した。
このイベントを企画したとき、私は「これは特売チラシみたいなもんや」と社員に話した。イベントで楽しい思い出を作ってくれたら、普段の試合にも来てみよう、と言う気持ちになってもらえる。野球を知らない人に観戦の楽しさを知ってもらうきっかけができる。顧客層を増やす意味でも、大きな意味を持つものだった。「ファミリーシリーズ」は好評を博し、その後の集客に好影響を与えた。以来規模を拡大させ、ゴールデンウィークの札幌ドームを毎年にぎやかに演出するようになった。
イベント自体の数も増やした。毎年4月に行う「開幕シリーズ」イベントから10月の「応援ありがとう」イベントまで、7つのプロジェクトが毎年展開されるようになった。チケットのときと同じく、ここでも多岐にわたるサービスの細分化がなされた。
2008年から始めた「おやじナイト」は、中年層をターゲットにしたイベント。希望者を募ってグランド整備体験、現役選手・コーチによるノック体験、果ては国歌斉唱やダンスまで楽しめるという内容だ。
2009年の「乙女の祭典」は女性社員たちならではのユニークな発想が満載の企画となった。選手との記念撮影やハイタッチのほか、「婚活シート」まで登場。100人分の座席に、応募してきた独身男女50人ずつが交互に座るという趣向。この企画は予想以上に好評で、これがきっかけでゴールインに至ったカップルもいる。
イベントの中身が充実するにつれ、社員たちのアイデアもまたバラエティに富んだものとなった。こうしたアイデアの先にあるもの、それは「札幌ドームをボールパークにしよう」という構想だ。
札幌ドームを野球観戦にとどまらない総合的な娯楽空間にすること、「ドームに行けば、きっと楽しい何かがある」と思ってもらうこと。それが私たちの目標なのだ。