エスエス製薬は10月末、医師が処方する医療用医薬品であるアレルギー性鼻炎薬「アレジオン」を処方箋なしで購入できる市販薬に転用して発売した。アレジオンのように眠気の副作用が少ない非鎮静性ヒスタミン薬は医療用医薬品市場では主流になっているが、市販薬としての登場は初めてだ。
薬局・薬店で手軽に医療用医薬品と同じクスリが手に入るのだから、「眠くなる」「病院に行きたくない」という理由でクスリを飲まずにいた花粉症患者には朗報である。エスエスの調査では、花粉症などのアレルギー性鼻炎患者のうち「クスリを飲んでいない患者」「医療用医薬品と既存の市販薬を併用する患者」「既存の市販薬だけを使用している患者」は全体の7割を占める。こうした層にアレジオンの市販薬は有力な選択肢となる。
では残り3割を占める「医療用医薬品だけを使用している患者」にも大きな魅力になるかといえば、微妙。ケース・バイ・ケースである。
アレジオンは1日1回、1錠を服用する。1錠(10ミリグラム)当たりの価格は市販薬が165円。医療用医薬品が120.7円。スギ花粉シーズンのあいだ飲み続ける場合、診察料や処方箋料、調剤料を支払っても医師処方の方が安上がりとなる。総コストで市販薬を上回っても、公的医療保険の適用で自己負担が3割で済むからだ。メリットを得られるのは、コストは割高でも、受診する時間と手間を省きたいという消費者に限られよう。
政府が医療用医薬品の市販薬への転用を推進するのは、国民医療費抑制につなげたいという狙いがある。しかし年間約2000億円にのぼるアレルギー性鼻炎薬の医療用医薬品市場が市販薬市場へと大きくシフトする流れが生まれることは、現状のままでは期待できないわけだ。
市販薬業界は「たとえば税金の医療費控除に市販薬を促進する工夫ができないか」と知恵を絞る。自分で健康を管理して軽度な不調は自分で手当てする「セルフメディケーション」の推進を国民医療費抑制に結び付けるにはさらなる一手が必要だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)