「神奈川県の大きな目玉となる地域だ」
横浜銀行の望月淳・取締役執行役員がこう期待を寄せるのは、川崎市を中心とする京浜臨海部だ。企業、学校の集積が進んでおり、目と鼻の先にある羽田空港も国際化されるなど、もともと発展のポテンシャルが高いうえ、国の「国際戦略総合特区」の最有力候補に残ったからだ。
総合特区とは、昨年6月に閣議決定された「新成長戦略」に基づき年内に指定されようという区域のこと。国の成長の起爆剤とするべく、区域限定の規制緩和措置ばかりか税制優遇、利子補給金の支給などの支援措置も望めるため、選ばれればビジネスチャンスが増すことは必至である。
その申請案に対する第一次・第二次評価結果が11月14日に公表され、神奈川県川崎市、横浜市、神奈川県の三自治体による「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」が最有力候補の三つのうちの一つに選ばれた。
じつはこの京浜臨海部の申請案、横浜銀行が三自治体の影武者となって全面的にバックアップしてきた。
川崎市が総合特区の申請を検討しているとの情報をキャッチするや協力体制を敷き、戦略会議の設置を提案。特区選出に向けた地域協議会などには日本政策投資銀行や、支店レベルでは競合しているはずの川崎信用金庫をも誘い入れ、特区が実現した場合に生じる資金調達体制を整えた。
加えて、さまざまな企業と関わりを持ってきた銀行ならではの視点も提供。特区としての成功可能性を高めるべく、企業誘致が進むよう、中小企業やベンチャー企業のニーズもきめ細かく吸い上げるようアドバイスしたという。
さらに、長く地方銀行協会の会長行を務めるなどして築いてきた中央官庁とのパイプを生かし、情報収集などにも一役買った。
もちろん、「出来上がってから乗っかるほうが楽。しかし出来上がるのを待っていても時間だけが過ぎていく」(高須英郎・公務金融渉外調査役)。なにより、構想段階から関与しておけばビジネスの獲得チャンスは格段に増す。ライバルの川崎信金などを巻き込むことでは、協調融資などが手掛けやすいというメリットも享受できる。
万一、特区に選出されなくとも、今回構築した市や県との強い関係性が将来的になんらかの形で役立つ可能性は十分考えられるため、おのずと鼻息も荒くなるわけだ。
景気の先行きは思わしくなく、本業である企業融資は黙っていえれば先細っていってしまう恐れが大きい。そうした環境に危機感を持ち、地銀もようやく待ちの姿勢から攻めの姿勢に転じてきたといえる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)