「不満や要望を聞いてどうするんですか?何を言ったってどうせ聞き入れてくれないんでしょ。ガス抜きってことですか?」
「いや、そんなことないよ。何か問題があれば、改善できるところは改善するし、要望があれば対応できることはしたいと思っている」

 それを聞いて、Cさんは不満に思っていることをぶちまけ始めた。

「そもそもウチの会社は人事評価がおかしいんですよ。いくら仕事を一生懸命しても、まったく評価してもらえないじゃないですか!」
「そんなことないよ。でも、やっぱり人事評価に不満があるんだね?」
「当たり前ですよ。人事評価がちゃんと行われてるっていうんなら、なんで僕は等級が上がらないんですか。おかしいでしょ。上がってる人が何人もいるのに……」

 キレたCさんの迫力に気圧されながらも、A課長は「なるほど、気になっていた空気の淀みの理由はこういうことだったんだ」と気づいた。そして、Cさんのほかにも似たような不満を持つ部下が多いのではないかと考えた。

誰もが抱える
「正当に評価されていない」という思い

 実は、A課長のように統括する部内で不満が渦巻いているのを感じる管理職は非常に多い。それもそのはずで、どんな職場でも、ほとんどの部下が「自分は正当に評価されていない」といった思いを抱えているからだ。それは、なぜか。

 人事評価というのは、実際とても難しい。上司といっても、部下一人ひとりの行動をすべて観察できるわけではない。成果を重視するといっても、ひと月の売り上げ額とか契約数といった数字では評価しにくい仕事がたくさんある。アピールするのが上手い部下が評価されやすいということがないとは言えないだろう。

 だが、そういった人事評価の難しさの問題をひとまず棚上げしても、誰もが「自分は正当に評価されていない」と感じる理由がある。

 それは「ポジティブ・イリュージョン」の存在だ。ポジティブ・イリュージョンというのは、自分の能力・業績や性格などを実際以上にポジティブに評価する認知の歪みのことであり、これは誰もが持つ心理傾向といえる。

 心理学者ダニングたちの調査によると、リーダーシップ能力について70%の者が「自分は平均より上だ」とみなしており、「自分は平均以下だ」とみなす者はわずか2%しかいなかったという。平均というのは真ん中を意味するわけだから、70%の人が平均を上回るなどということは統計的にあり得ない。

 人と上手くやっていく能力に関しても、「自分は平均より上だ」とみなす者が85%もおり、「自分は平均を下回る」とみなす者は皆無だった。85%の人が平均を上回るなど、到底あり得ない話だが、人と上手くやっているかどうかは、リーダーシップよりもわかりにくいため、さらに認知の歪みが著しいのだろう。人と上手くやっていく能力に関しては、25%もの者が自分は上位1%に入ると思い込んでいた。