いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。

遺言書が紡ぐ家族の絆

遺品の中にあった1通の封筒

 義理のお母さんの公正証書遺言を作成してから1年半が過ぎた頃、義母よりも先に夫が亡くなったと連絡がありました(前回コラム参照)。

 事務所にいらした三浦利子さんは、熱いお茶を口に含まれると、正気を取り戻されたようです。

「葬儀は終わったのですが、この先どうしていいかわからなくて。義母も呆然として抜け殻のような毎日を過ごしています」

 私はかける言葉もなく、ただうなずくことしかできませんでした。こんな状態ですから、次に行うべき相続手続きなどを早急に行ったほうがよいとは思えませんでした。

「今日はお帰りになられて、四十九日が終わった頃にまたいらしてください。私のほうでもできることは準備しておきます」とお伝えしました。

 再び、利子さんから連絡があったのは、秋も深まった頃でした。

「先日は取り乱してしまって、すみませんでした。あれから四十九日も滞りなく終わり、三浦家もようやくいつもの生活を取り戻しつつあります。そこで相談なのですけど、今後、私たち家族がどうしていけばよいかをアドバイスしていただけないでしょうか?」

 そこで私は、正さんが遺言を遺されているかどうかを尋ねました。

 利子さんはハンドバックから1通の封筒を出されて机の上に置きました。

「実は四十九日が済んで遺品整理をしていたら、机の引き出しからこれが出てきたのです。これは夫の手紙なのでしょうか? それとも遺言書として法的に認められるものなのでしょうか?」

 手渡された封筒には封がしておらず、A4用紙1枚に「遺言書」とタイトルが書かれた、とてもシンプルなものでした。