幼い頃のきょうだい喧嘩なら微笑ましいかもしれないが、大人になってからのそれは一筋縄ではいかない問題を引き起こすことがある。当人同士だけならまだしも、結婚をして家庭を築いたら、配偶者もトラブルの当事者として加わることもあり、注意が必要だ。会って話し合うのが面倒だからと問題を放置しておくと、とんでもないことになることがあるようだ。(取材・文/フリーライター 吉永麻桔)
父の死後、発覚した意外な事実
筆者の知人であるA子は、数年前に父上を亡くし、実家の土地の相続をめぐって親族との話し合いが何年も難航していた。不動産の相続登記は税務署の相続税などと違って、いつまでにやらなければいけない期限もなければ、義務もない。それをいいことに、日頃から仲がよくなかった弟との話し合いを避けたい気持ちから、目をそらしてきたのだという。
ところがちょっとしたきっかけで実家の土地の登記簿謄本(全部事項証明書)をとったところ、弟の名義に変わっていたというのだ。
一体何が起こっているのかわからず、法務局に6年間勤務した経験のある筆者に相談の連絡をしてきたようだ。とりあえず登記簿謄本をじっくり見せてもらうことにした。
法的に義務のない相続登記を放置していた結果が…
日本の不動産登記制度は「形式審査主義」を採用している。形式審査主義とは、申請書や添付書類がきちんとそろっており適法であれば、その内容が事実かどうかを調査する義務はないということなのだ。まさにこれを上手く利用した形で、A子の実家の土地は弟名義に変わっていた。
どのような方法かというと、父上が亡くなった日に「相続」を理由として母上にいったん所有権を移転し、同日母上から「贈与」を理由として、弟に所有権が移転されていたのだ。