いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。

遺言者である義母でなく、夫が先に他界した

義理の母の遺言をつくりたい

 まだ寒さの残る早春の頃、事務所に電話をしてきた妙齢の女性がいました。

「遺言をつくっていただきたいのです。でも実は、私の遺言ではなくて、夫の母の遺言なんです。数年前に義理の父が亡くなって、ほぼすべての財産を母が相続したのですが、母も高齢なので、終活準備をしたいのだそうです」

 最近よくある終活に関するご相談だと思った私は、軽い気持ちでご依頼を引き受けました。

 事務所にいらしたのは三浦智恵子さんというお母様と、その長男の嫁の三浦利子さんのおふたりです。私のほうから遺言手続に関する一般的な流れを説明して、遺言予定者のお話をうかがうことにしました。

 すると、利子さんから次のような説明がありました。

「義母の智恵子、夫の正、息子の正一、正二の5人で暮らしています。もともとは他界した義父も一緒に暮らしていて、その家を3年前に義母が相続しました。私の夫はここ1年ほど体調が悪く、仕事も辞めて家で静養しているため、今日は私が代わりに来ました。夫には弟の次郎さんがいて、二人はとても仲が悪いのです。これから義母の相続が起きたらと思うと、先行きのことが心配なんです。義母からも三浦家のこれからのことを相談されていまして……」

 だいたいの状況を理解しましたが、ひとつ気になることがありました。三浦智恵子さんは黙ってじっと話を聞いているだけで、ほとんどの説明を嫁の利子さんがしているのです。

 私の仕事は、ご本人からの依頼がないと原則行うことができません。私は智恵子さんに直接聞いてみました。

「ひとつおうかがいしたいのですが、この遺言をおつくりになりたいのは、智恵子さんで間違いないですよね?」

 智恵子さんは、一瞬はっとした顔をされましたが、「そうです。最近ではなんでも、利子さんに任せてしまっているものですから」とお答えになりました。