条件が揃っていれば
法的効力のある遺言になる

「第1条 私の財産のすべてを妻 三浦利子に相続させる。第2条 本遺言執行者は、妻 三浦利子とする」と「本文」があり、続けて「付言」と書かれた後には、次のように記されていました。

この先どれほどこの命があるのかわからないので、生きた証をここに遺しておきたい。病気がちで家族に何もしてあげられなかった私を許してほしい。でも、家族を想う気持ちは誰にも負けないつもりだ。
 正一は勉強が好きでとてもできる子だから、しっかり勉強して自分の進むべき道を見つけてほしい。正二は野球が好きで、親からみても才能があると思う。これからは、自分の才能を伸ばしてくれるよき指導者がいる学校に進みなさい。二人の息子たちには、自分の好きな道を自由に進んでいってほしいと思う。
 そして妻の利子には苦労ばかりをかけて申し訳なく思っている。普段は言葉にすることができなかったが、お前と結婚することができてとても幸せだった。お前のつくる料理は本当に美味しかったよ。どうもありがとう。
 お母さんには長男としての責任を果たせず申し訳なく思う。でも、あなたの息子で幸せでした。そして、弟の次郎にも感謝の気持ちを伝えたい。父の厳しい教育で、何かとお前と比較され、いつの間にかぎくしゃくした関係になっていたけれど、本当はお前のことも可愛い弟だと思っている。もし私の家族に何かあった場合には、力になってほしい

 読み終えて、正さんの無念な思い、そして家族を愛する気持ちが伝わってきました。

「これは正さんからご家族に向けた最期のラブレターですね。自筆証書遺言として、法的効力があるものです。日付も名前も書かれ、全文自筆で書いてある。そして印鑑も押してあります。きっとお母様の智恵子さんが遺言書をつくられたときに興味を持たれてつくられていたのでしょう」

 そう聞くと利子さんも安堵の表情になりました。そして、「夫の遺言書のことはよくわかりました。でも、以前つくった義母の遺言書はどうしたらいいでしょうか?」と聞かれました。

「お母様の遺言書は作成時とだいぶ状況が変わっています。以前の法定相続人は長男の正さんと弟の次郎さんの2名で、祭祀承継者および遺言執行者は正さんでした。正さんがお亡くなりになったという意味で、お母様の遺言書はすべてが有効であるとは言えません。でも幸いなことに、予備的遺言形式と言って、智恵子さんより先に正さんが亡くなった場合には、利子さんが正一さんの権利を受け継ぐ(包括して遺贈を受ける)形式になっています。お母様には、落ち着かれたら、またご相談にいらしてくださいとお伝えください」

 その後、利子さんは夫の遺言書を家庭裁判所で検認し、金融機関等での相続手続きを行いました。弟の次郎さん家族との交流も深まってきているようです。生前は仲が悪かった兄弟であっても、1枚の遺言書がその関係を修復してくれることがある。そんなことを感じた出来事でした。