バイリンガルの娘を持つ父として感じること
わが家の2人の子どものうち、現在15歳の長女は、11歳までをアメリカで過ごし、僕がイェール大学を辞めたタイミングで日本に移住しました。英語ネイティブの友人たちとはもちろん英語で話しますし、家でも日本語40%、英語60%くらいを話すバイリンガルです。
英語の発音に関しては、僕よりもかなり自然ですから、いまだに「You always talk to me as if you were giving me a lecture!(お父さんの英語って、いつも講義しているみたいな話し方ね!)」などと笑われることも少なくありません。
彼女は口頭の意思疎通では日本語を使いますが、知的な作業は主に英語で行っているようです。本人が意識して日本語力を高めようとすれば、おそらく両言語を同じように操れるようになるのでしょうが、それはあくまで今後の努力の方向性次第です。親としては、その判断は本人の主体性に委ねようと思っています。
長女の語学力をうらやましがる人もいるのですが、実際はそれほど単純ではありません。言葉を身につけるというのは、その文化をも同時に身につけることです。長女を見ていると、2つの文化間のギャップに直面し、ストレスを抱くことも少なくないようです。
いずれにしろ、彼女が大人になれば、2つの言葉が操れることの恩恵を実感する日は、間違いなく訪れるでしょう。僕はそう確信しています。そうはいっても、彼女自身がバイリンガルになることを自ら望んだわけではありませんし、僕たち両親には知り得ない葛藤を味わっているのも事実なのです。
バイリンガルは、たまたま生まれ育った環境が外国だったり、本人や家族が努力したりと、さまざまな条件が重なってでき上がるものです。
そういう条件がないのであれば、あくまでも「外国語として十分な水準の運用能力」を目指すのが自然なあり方だと思います。
(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。