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ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の助言でアパレル大手TSIホールディングスが実行した大規模なリストラは、TSI法務部からの法的リスクの指摘を押し切って強行された。その結果、現場では凄惨な退職強要が横行し、部下の選別や不当な配置転換で退職を迫る役回りを負わされた部門長は心身を消耗。続々と会社を去っている。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕』第6回の本稿では、管理職に共有された退職面談マニュアルや面談記録を基に、BCGが提示したリストラ案が現場にもたらした“地獄絵図”の実態を明かす。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
法的リスク満載のリストラ案が始動
対象者の選別と面談を部門長に丸投げ
「アヴィレックス」「アンドワンダー」「パーリーゲイツ」などのブランド群を有するアパレル大手TSIホールディングス。同社の2025年2月期の業績は、売上高1566億円に対し、営業利益16.3億円だ。売上高営業利益率は3年連続で1%台と低迷し、低収益体質が課題だった。
この状況を一気に転換しようと、同社はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に数十億円を投じ、収益改善に向けた助言を仰いだ。
TSIはBCGの提案を受け、24年4月に始動した中期経営計画で、27年2月期までに約100億円の収益改善を目指す高い目標を掲げている。
BCGが示した収益構造改革の柱の一つが「26年2月期に10億円の人件費削減を達成する」という目標だ。併せて、本社人員の2割削減を伴うリストラ案が提示された。
その中で考案されたのが、部門長に部下をA~Dの4段階で分類させる「ABCD選別リスト」である。Aは「エース人材」、Bは「業務遂行に必要な人材」、Cは「業務遂行に不要な人材」、Dは「早期退職の筆頭候補」と分類し、C・Dの社員をリストラの対象とした。
BCGが作成した内部資料によれば、本社職約1140人のうちC評価を100人、D評価を140人とする案が示されていた。C・D評価の社員には部門長が個別に1対1の退職面談を実施し、退職や店舗職への配置転換を進めることで、26年2月期に10億円以上を捻出できるという試算だった。
こうして設計されたリストラ案は、TSI法務部が法的リスクを指摘して抵抗したものの、24年9月ごろから実行された。
部門長は退職者数の必達目標が課され、退職勧奨する部下を自ら選び、退職しなければ“倉庫送り”(店舗のバックオフィス業務への不当な異動は、本社でそう呼称されていた)になることを告げる役割まで一任される。部門長に共有された退職面談の想定問答集も“法的リスク満載”の内容だった。
その結果、現場では法務部が危惧していた通り、凄惨な退職強要が横行することになる。
次ページでは、BCG案が現場で遂行されるまでのプロセスを、BCGプロジェクトチームとTSI取締役会、コーポレート本部、その配下にある統合人事部・経営企画部・法務コンプライアンス部の関係と共に、一部実名入りで図解。BCG案の決定後に部門長へ課された遂行事項の詳細や、法的リスクを内包した想定問答集、実際の退職面談の問題点を検証する。







