前回、「100年安心な年金」の意味について考えた。簡単におさらいしておこう。
(1)「100年安心」は、年金財政において今後およそ100年間を通してみれば、収支相等が成り立つという厚生労働省推計を拡大解釈した政治的キャッチコピーである。
(2)収支相等とは、年金財政が一定期間を通じ最終的に帳尻が合うことを意味する年金用語である。収支相等が成り立つこと自体、年金財政にとって必要であるが、それだけでは十分ではない。世代間の公平性が考慮されていないためである。
(3)収支相等を成り立たせる手段として、2004年の年金改正において導入されたのが、マクロ経済スライドである。そのマクロ経済スライドも、いまだ機能しておらず、それによる財政的ツケは将来世代に先送りされている。早急な見直しが必要である。
今回は、このマクロ経済スライドの仕組みとその問題点を掘り下げよう。
給付抑制のために編み出される
マクロ経済スライドは、後に説明するように、実に迂遠で分りにくい。ネーミングも何を意味しているのか分からない。そもそも、なぜ、こうした方法が考えられたのか。年金数理(年金財政を対象とする数学)の視点から給付抑制の手法を選択するならば、即座に年金額をカットするのが、最も手っ取り早い。
わが国の年金財政は、そのときどきの現役層から年金受給層へ所得を移転する賦課方式で運営されており、高齢化率が高まるなか、給付水準の抑制が必要であることは明らかである。とすれば、直ちに年金額をカットすれば、その分、年金財政は確実に改善する。将来世代も楽になり、世代間の公平にも適う。