高野:「支配する」という考え方は、日本的かもしれません。日本の風土に合った組織とグローバルに展開する組織には、違いがあります。グローバルに展開していこうとしたときに、どうしてもクリアしなければいけないのが、「人」の問題です。「人」はコントロール(支配)してはいけないんですね。
三輪:では、どうすればいいのですか?
高野:必要なのは、「コントロール」ではなく、「マネジメント」なんです。だからドラッカーは、『マネジメント』を書いたのであって、ドラッカーの本で『コントロール』というタイトルはありませんよね。アメリカのホテルのトップは「ゼネラルマネージャー」とか「マネージングディレクター」と呼ばれています。一方、日本では……
三輪:支配人!
高野:そうなんです。マネジメントという概念を持たない組織は、スタッフを画一的、一方的にとらえようとしがちですね。
三輪:ということは、私が人気者になれたのは(笑)、スタッフを支配するのではなく、「まとめて面倒を見てあげよう」という意識があったから、というわけですね。スタッフが危ない目に遭うくらいなら、私が命を落としてもいいと思っていましたから。
流暢な英語より、ブロークン英語のほうが通じる
三輪:私は高野さんが登壇されている「宿屋塾オンラインセミナー」を拝見して、「この方は、なんて穏やかな人なのだろう」と思ったんです。私のスタッフ全員に声をかけて、「ホテル業界にもこんなに穏やかな人がいるんだよ。高野さんを見て!」と、みんなで何回も繰り返し見たんですね。「さすが、ザ・リッツ・カールトンだ!」って。ですから、『リッツ・カールトンとBARで学んだ高野式イングリッシュ』を拝読するまでは、高野さんが「ストリートBARで英語を学んだ」というのが想像つきませんでした。
高野:拙著にも書きましたが、「生きた英語」を学べたのは、まさしくBARのおかげなんです。いつも同じジャンパーを羽織る目つきの鋭い男とか、ベルトの上から脂肪がはみ出すスキンヘッドの男とか、そういう怪しげな人たちとのやりとりを通して、「ストリートで通用する英語」を身につけたんです。
三輪:「英語は人と人を結びつける道具なのだから、正しさにこだわる必要はない。ブロークンでもいい」という高野さんの考えには、私も共感しています。ホテルという場所は、流暢な外国語を話す場ではなくて、ジェスチャーでもいいから、心を通わせることが大切だと思うんです。
高野:ジェスチャーでも、心と心は通じ合うものですからね。
三輪:「心と心は万国共通」なので、私はスタッフに対して、「流暢な英語を話すこと」は要求しませんでした。それよりも、「話せないのに、必死に汗をかきながら一生懸命に伝えようとする姿勢」にお客様は感動するのではないでしょうか。ビジネスホテルの場合は、特にそうだと思います。