全米注目のまったく新しいキャリア論『今いる場所で突き抜けろ!』の著者、カル・ニューポートは、自分の好きなことを仕事にしようとする姿勢を「願望マインド」と名づけ、目の前にある仕事のスキルを磨こうとする姿勢を「職人マインド」と名づけた。対照的なマインドのどちらを受け入れるべきなのか?本書4章から抜粋する。
私が願望マインドを嫌う理由
『ファスト・カンパニー』誌の2008年のマニフェストに、『このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?』の著者でもあるポー・ブロンソンはこう書いた。
「自分がいったい何者なのかを問いただして、それを本当にやりたい仕事と結びつける。そうすることで人は成功する」
まさに「“好き”を仕事に」幻想を信じている人なら、思わず口に出してしまうアドバイスだが、私は、このアドバイスは誤りだとした。
このことを踏まえて、このブロンソンが推薦する仕事に対するアプローチを「願望マインド」と呼ぼう。
これとは対照的に、目の前の仕事のスキルを高めようとするアプローチが、「職人マインド」だ。職人マインドが、「あなたは何を世界に与えることができるか」を重視しているのに対して、願望マインドは、「世界はあなたに何を与えてくれるか」を重視している。大半の人の仕事へのアプローチは後者である。
私が願望マインドを嫌うのには2つの理由がある。
1つ目は、「仕事が何を与えてくれるか」のみを考えていると、現状の自分の仕事のイヤなところが過度に目につき、慢性的な不満をもたらすからだ。これは特に新入社員に当てはまる。
というのも、その名の通り、新入社員には、やりがいのあるプロジェクトや自由は与えられないからだ。それらはもっと経験を積んでから与えられる。割り当てられたうっとうしい仕事や、社内の官僚体質は、願望マインドを胸に抱いて実社会に出た新人の手に余る。
2つ目はさらに深刻だ。
「自分は何者なのか」「自分が本当にやりたいことは何か」といった、願望マインドがもたらす深刻な問題は、本質的に明確な結論を出すことができない。
「これが本当の私なのか」「これが本当にやりたかったことか」という問題に、はい・いいえ、で答えが出ることはほとんどない。
つまり、願望マインドは、あなたを永遠に不幸にし、途方に暮れさせることを保証するようなものだ。そういうわけで、ブロンソンが著書『このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?』の冒頭でこう認めているのも頷ける。
「人は誰でも、自分を知るさまたげとなる心理的障害物をかかえているらしい」