わくわくする夢より
「不安という名の現実」がモチベーションになる

 私はそうは思わない。

 まず、ジョーダンやスティーブ・マーティンのような音楽家や芸人は天職に出会ったことを確信している点で安泰だろうという思い込みから片づけていこう。

 プロのタレント、特に駆け出しの新人と過ごしたことがあれば、彼らの生活不安がいかに根強いのか気づくはずだ。ジョーダンは、友人がどうやって生計を立てているのか、また自分は彼らに引けをとらないくらいうまくやれているのかという心配事を、「気がかりの雲」と名づけている。

 この雲との戦いは進行中のバトルだ。同様にスティーブ・マーティンも芸風の変革への専心は10年にも及んだが、その間ずっと不安であり、定期的に襲う深刻な不安発作に苦しんだ。彼らのようなパフォーマーが抱く職人マインドの源は、疑う余地のない内なる願望などではなくもっと現実的だ。

 エンターテイメント業界で有効なのは、この現実性だ。

 マーク・キャスティーブンスが教えてくれたように、「テープはウソをつかない」ギタリストでも、コメディアンでも、自分の表現するものがすべてである。真の天職に巡り合ったかどうかに意識を集中させていたら職を失ってしまい、その問題そのものが意味をなくすだろう。

 次にもっと根本的なことを言うと、パフォーマーたちがなぜ職人マインドを受け入れるのかは私にはどうでもよい。前に述べた通り、この業界は特殊であり、彼らの行動の動機になるものは一般化できないのだから。

 ジョーダンの話に私が注目したのは、職人マインドを実践するとどのようになるのかを見せたかったからだ。つまり、なぜジョーダンがこのマインドを受け入れたのかは忘れて、代わりにどうやってそれを展開していったのか、に着目しよう。

 まず、職人マインドを受け入れよう。

 そうすれば、「やりたいこと」は後から必ずついてくる。