「1か月後に結婚式を挙げたいんです」末期ガンのお父様に花嫁姿を見せたいと、新婦は話しをしていた。
ところが、その翌日に突然のキャンセルのお電話が。

奇跡の青空

  今から10年前のお話です。
  「1ヵ月後に結婚式を挙げたいんです」
  通常の結婚式は準備に半年から1年ほどお時間をかけるものですが、そんなお電話をいただいたことがありました。
  急がれている理由をお伺いすると、新婦のお父さまは末期ガンに冒され、余命はあと1ヵ月だと宣告されたというのです。
  新婦にはお母さまがおらず、お父さまは男手ひとつで新婦を育ててこられました。
  お父さまはいつか見られる娘の花嫁姿を幼い頃から楽しみにされてきました。
  だから、どうしてもお父さまに花嫁姿を見せてあげたいと思われたそうです。

  「絶対にお父さまに見ていただきましょう」
  私はそう申し上げ、早速準備に取りかかりました。
  お電話をいただいたのは9月半ば、1ヵ月後の10月18日に結婚式を予定しました。

  ですが、その翌日に突然キャンセルのお電話が入ったのです。
  あんなに急いでいらっしゃったのにどうされたのだろうと思い、ご事情を伺いました。
  「今日お医者さまから『余命はあと2週間くらいでしょう』と言われました。10月18日だともう間に合わないので、結婚式を諦めようと思います」
  そう、悲しそうにおっしゃる新婦。
  何とかできないものかと歯がゆい気持ちでしたが、私はその時、まだ入社2年目。
  どこまでお客さまの人生に踏み込んでいいのかわかりませんでした。
  それで、「かしこまりました」と申し上げるしかありませんでした。
  「落ち着いたらまた電話しますね」
  新婦は静かにそうおっしゃいました。