◆指示が通る上司と「細かすぎて嫌われる上司」の決定的な違い
部下が動かない、Z世代との距離感がつかめない……そんな悩みを解決するのが、ソフトバンク「汐留の母」と呼ばれた澤田清恵著『伝え方ひとつで部下が動き出す 上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)だ。生身のリーダーに求められる最強の武器は生成AIには代替できない「コミュ力(共感力)」。単なる同情ではなく、相手の視点を論理的に理解する「認知的共感」の技術を体系化した、悩める上司たちの「読むサプリ」だ。呼吸を合わせる基本から、自身の無意識を言語化する応用、さらには「飲み会の失敗事例」や「エース部下の退職」といった実例に基づく「しくじり」分析まで網羅。表面的なテクニックではなく、心・技・体を整え、信頼で組織を動かすための実践的ノウハウが詰まった決定版!
※本稿は、『伝え方ひとつで部下が動き出す 上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

「仕事が多すぎる」と嘆く部下に、「どれが大変?」と聞いてはいけない明確な理由Photo: Adobe Stock

リーダーに求められる「もう一つの視座」
情報の海を俯瞰する「パノラマ・アプローチ」

上司と部下の関係では、部下の立場を踏まえたうえで、親身になることが大切です。そこで重要になるのが、「抽象度を上げる」という考え方です。抽象度を上げるということを理解するために、まずは「抽象」と「具体」の違いを整理しておきましょう。

たとえば、高いビルに上ると、地上にいたときよりも広い範囲が見渡せますよね。それと同じように、抽象度を上げて視点を「俯瞰(ふかん)」に切り替えると、見えてくる情報の量や質が一気に広がります。

主観の壁を超え、相手の背景に触れる
思考を自在に伸縮させる「ズーミングの技術」

その結果、自分だけの感情や価値観にとらわれることなく、広く相手の視点や背景を受け入れられ、より深い共感が得られるようになります。

このように物事をより大きなまとまりや概念として捉える行為を「チャンクアップ」というのです。「チャンク」は「塊」や「まとまり」を意味する言葉で、反対に、物事を細かく分解して具体化していくのが「チャンクダウン」です。

【解説】現場の「不満」を「課題」へと変換する技術

管理職として日々多くの課題に直面する中で、「なぜ部下は思い通りに動かないのか」「なぜ価値観がこれほど違うのか」と頭を悩ませることは少なくありません。この「チャンクアップ(抽象度を上げる)」と「チャンクダウン(具体化する)」の概念を使いこなすことは、単なるコミュニケーション術を超え、組織の生産性を劇的に変える武器となります。

部下から「業務量が多すぎて無理です」といった具体的な不満(チャンクダウンされた情報)をぶつけられたとき、多くの管理職はつい「具体」のレベルで「どの作業が大変なのか」と問い詰めてしまいがちです。

ここで一度、視点を「俯瞰(チャンクアップ)」へ切り替えてみてください。「彼がこの不満を漏らす背景にある、チーム全体のボトルネックは何か?」「この不満が解消された先に、どのようなチームの状態を目指すべきか?」と問い直すのです。

“具体の沼”から一歩抜け出し、背景にある「構造」に共感することで、感情的な対立を建設的な課題解決へと昇華させることができます。

「共感」を成果に結びつける「具体」と「抽象」の往復

マネジメントにおいて、抽象度の高いビジョンを語るだけでは組織は動きません。逆に、細かな指示(マイクロマネジメント)ばかりでは部下の主体性は失われます。優れたリーダーは、この「具体」と「抽象」を自在に往復します。

チャンクアップ:個人の失敗を「成長の機会」という高い概念で捉え直し、部下との心理的距離を縮める(深い共感の醸成)。
チャンクダウン:共有したビジョンを、部下が今日から取り組める「具体的なアクション」にまで落とし込む(実行力の担保)。

この往復運動こそが、部下に「自分の仕事には意味がある」という納得感を与え、自律的な行動を促す原動力となります。

感情に振り回されない「メタ視点」の獲得

管理職自身が感情的になりそうなときほど、この「俯瞰の視点」が助けになります。目の前のトラブルを一つの「事象」としてチャンクアップし、組織全体の流れの中での「一時的なプロセス」として捉え直すことで、冷静な判断が可能になります。

「具体」の細部に潜むストレスにとらわれず、「抽象」の広がりを持って相手を包み込む。この思考の柔軟性こそが、多様な個性を活かし、複雑なビジネス環境を勝ち抜くリーダーに求められる「真の共感力」の正体なのです。

※本稿は、『伝え方ひとつで部下が動き出す 上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。