ドレスの手配もあまりに急でしたが、事情を話すと、
「ぜひ協力させてください」
そう言って、ドレスショップは新婦に似合うドレスを用意してくれました。
入院先の病院のお医者さまも「喜んで協力します」と快諾してくださり、看護師さんがお部屋を手作りのお花で飾りつけ、オルガンは病院のものをお借りして、看護師さんが聖歌の伴奏をしてくださることになりました。
10分ほどで終わるような小さな小さな結婚式。
それでもみんなの想いがぎゅっと詰まった温かいものにしたい。
聖書の代わりにお父さまの手の上にお二人の手を重ねて、その温もりの上で結婚の誓いをしていただこう。
お父さまも新婦も、とても楽しみにしてくださっていました。
いよいよ挙式を翌日に控えた朝のことです。
新郎から私のところにお電話がありました。
「先ほど義父が……天国に逝きました」
私は全身の力が抜けていくような感覚に陥りました。
「この世に神様なんていない……」
お父さまと新婦の小さな夢が叶うはずだったのに。
どうして後1日くらいお迎えを待ってくれなかったのか……。
悔しくて悔しくて仕方がないのと同時に、自分を責めました。
「なんていうことをしてしまったのだろう」
結婚式を諦めていらっしゃった新婦ですが、私の一言でお父さまに花嫁姿を見せることができるという希望をお持ちになられました。それなのに 結局は結婚式を挙げられなかった。
希望を持った分だけ悲しみを増大させてしまったのではないかと。
後悔の念と申し訳ない気持ちがわきあがってきました。
数日後。
新婦からお電話がありました。
「なんてお声をかけよう……なんてお詫びしよう……」
言葉を探しながら電話に出ると、思いがけず明るい声が聞こえてきました。
「父のお葬式は無事に終わりました。そして今日、入籍してきたんです。そのことを有賀さんに報告したくてお電話しました」
「この度は本当に……申し訳ありませんでした」
私は受話器を持ったまま頭を下げました。
「何を言っているんですか。私たちには感謝の気持ちしかないんですよ。父に隠れて結婚式をキャンセルしたために、そのことを父に悟られたくなくて、みんな病室から遠ざかっていたんです。そして気がつけば、父のベッドのそばには誰も行かなくなっていました」
そして新婦は続けておっしゃいました。
「でもそんな時に有賀さんが『結婚式を病室で挙げましょう』とおっしゃってくれたことで、もう何も隠す必要がなくなり、『あと何日だね。楽しみだね』と父の周りにみんなが集まるようになりました。彼の両親も結婚式に向けて神戸から上京したことで、最期に父と顔を合わせることもできました。だから父はみんなの笑顔に囲まれて天国に逝くことができたんです。有賀さんの一言がなかったら、きっとみんながベッドから遠ざかったままで、父は寂しい思いをしながら亡くなったと思います。私たち両家の家族にとっては、有賀さんは恩人だと思っているんですよ」
あまりにありがたいお言葉に私は涙が止まりませんでした。