すでにお父さまが余命2週間を宣告されてから1週間が経っていました。残された時間はあと1週間しかありません。
  私は大急ぎで新婦にご連絡をしました。
  「病室で小さな結婚式を挙げませんか?」
  「え……病室で?」
  「お父さまが動くことができないなら、お父さまのベッドのそばで結婚式を挙げましょう。そして、お父さまに花嫁姿を見ていただき、感謝のお気持ちを伝えましょう」
  「そんなこと、できるんですか?」
  予想もしていなかった提案に最初は戸惑っていらっしゃるご様子の新婦でしたが、私の説明をお聞きになるとその可能性に賭けてみたいと目を輝かされました。

  ただひとつ気がかりがありました。
  以前、キャンセルのご連絡をいただいた時のことです。
  「結婚式をキャンセルされたということをお父さまはご存じなのですか?」
  「いえ……父には言っていません。父は結婚式をとても楽しみにしていて、病室にモーニングをかけて、それを毎日眺めているんです。あのモーニングを着ることを生きがいに頑張っています。もし結婚式をキャンセルしたことを知ったら、生きがいを失ってしまうかもしれません」
  けれども、病室で結婚式をすることをお父さまにお話しすれば、10月18日に予定していた結婚式をキャンセルしたこともお伝えしなければなりません。
 「お伝えしても大丈夫なんでしょうか……」
 「父も自分があと1ヵ月も命が持たないことを本当はわかっているはずです。結婚式には出られないだろうと思いながら日々を過ごしていると思います。だから……もう伝えても大丈夫です」

  お父さまは意識がときどき戻るものの、昏睡状態とのこと。
  「父に意思確認できるかもわからないので、また連絡します」
  新婦がそう言って電話を切った10分後にお電話がありました。
  お父さまは幾日間も昏睡状態だったにもかかわらず、その時だけ目をはっきりと開けられたそうです。
  「お父さん、病室で結婚式を挙げられるんだって……やる?」
  新婦がそう訊ねると、はっきりとした口調でお答えになられたそうです。
  「やりたい」
  新婦は電話口で声を詰まらせています。
  「父もぜひにとのことなので、よろしくお願いします」

  病室での結婚式は、3日後の夕方4時から行うことになりました。
  お父さまのお部屋からは病院の中庭が見えるのですが、毎日夕方になると花壇に光が差し込むそうです。
  柔らかい夕日に包まれる花々。
  お父さまはその光景が大好きだということで、その時間に挙式をしたいと新婦がご希望されたのです。
  式はご家族と牧師と1名の聖歌隊だけの小さなもの。
  そして、外国人牧師による英語での式を行うことにしました。というのは、お父さまは昔、パイロットをされており、外国を飛び回って英語でお仕事をされていたことを誇りに思っていらっしゃると伺っていたからです。