サッポロホールディングスは、2016年から人材育成制度の「越境プロモータープログラム」をスタートさせている。これは「越境せよ」を人事戦略の基本理念に掲げる同社が、人材育成、組織開発に関する課題を「若手人材の奮起」を促すことによって解決して行こうというもの。だがプログラムの推進には苦労も多いという。どのような背景でその施策が生まれ、実際、どのように運用し、どんな成果をあげているのか取材した。(ライター 井上明美)

若手人材育成、組織変革が急務

 バブル崩壊、リーマンショックで長く不況に見舞われた日本経済。その間、企業は新卒採用を大幅に縮小したことにより、現在、多くの企業の年齢構成が「逆ピラミッド」や「ワイングラス型」などと言われる、いびつな形状になってしまった。バブル期に大量採用された世代、40代後半以上が最大のボリュームゾーンとなり、就職氷河期世代である30歳代が非常に少なくなっている。サッポロホールディングスもそのひとつ。ミドル・シニア層が社員の4割を占めており、そのボリュームゾーンが抜けた後を支えていく若手人材の育成が急務だという。

サッポロHDは若手人材を「越境」させて育成するサッポロホールディングス 福原真弓 取締役人事部長

 こうした状況を受け、サッポロホールディングス取締役人事部長・福原真弓氏は「中堅若手社員のステップアップは、今の管理職世代が歩んだときよりも速度を上げなくてはならない状況になっています。マネジメント候補者には組織マネジメントを早いタイミングで体験させ、育成することが急務です。加えて、もうその下のさらに若手層についても、早いうちから視野を広げ、次世代を担うのは自分たちであり、“自分の力で会社を変えていくことができる”ということを体感し、成長してほしいと思っていました」と語る。

 もともと、同社は人材育成(人財育成)ビジョンとして「自燃型で成果を出せる早期育成で人財力No.1企業へ」と掲げている。この「自燃型」とは、「情熱という心の火をまわりの人からつけてもらうのではなく、自らつけて燃える」人材という意味で、「自燃」するようなチャレンジマインドを持つ人材を育成するビジョンだ。

 それに加え、人事戦略の基本理念に「越境せよ」を掲げてもいる。「越境」とは、ビジネスにおけるグローバル化の意味で事業や国を越えていく、という意味もあるが、もっと身近な部分では「自分自身の壁」や「会社組織の壁」を越えて行け、ということだという。

 こうした人材育成の課題に加え、本社の組織開発の点での課題もあった。同社で従業員意識調査を行なうと「社内コミュニケーションの悪さ」を指摘する声が多かったという。

 同社は東京と北海道本社のほか、9つの地区本部・7工場・2ワイナリーで組織されているが、この組織体制の中で、地区本部では本社がどのようなねらいで事業戦略を立てているか見えにくく、逆に本社からは地区本部の事業が見えにくいという声があった。例えば新製品の販促について、本社は資料を配布したのだから戦略が理解されていると思っているが、地区本部にはなぜその決定に至ったかの意図が伝わっていないため、本社と地区本部で話が噛み合わず、一体化して動けていないことなどがあったという。