中小企業経営者にとっての悩みは多いが、中でも「人材」の課題は特に大きい。私が取材を重ねた経営者たちの声から、「優秀な人材が集まらない」「社員が定着しない」「残業を減らしたくても人員が足りない」「技術の承継が進まない」「出産を機に女性社員が辞めてしまう」の5点に集約されると言っていいだろう。だが、これらをうまく解決している会社もある。この5つについて、具体的な課題解決例を紹介したい。決め手は経営者が主導して「働きやすい職場環境を目指した」ところにある。(経済ジャーナリスト・山本信幸)

1.「優秀な人材が集まらない」悩み

今、中小企業経営者を悩ませる「人材」にまつわる5つの課題

人口減少が進む地方の中堅・中小企業では、優秀な人材の確保が切迫した課題になっている。優秀な学生ほど大都市・大企業を志向するからだ。

 九州の建設資材を扱うA社は当初、学生の獲得をひとまずあきらめ、現有戦力の確保と活用に力を入れた。建設関連業界は「3K」(汚い・危険・きつい)の典型的な職場と見られがちだが、「汚い」と「危険」は教育の時間も含めたコストを掛けることで一定の水準まで引き上げることができる。だが「きつい」の改善は難しいと思われていた。原因が長時間労働と有給休暇の取りにくさにあり、労働環境の抜本的な改善を伴うからだ。

 そこで、A社の経営者はまず全部門の「残業ゼロ」と「有給休暇の100%消化」を目標に掲げた。幹部は部下の仕事を押しつけられるのではないかと心配し、社員は休むと給料や評価に影響するのではないかと疑心暗鬼だったが、社長自身が率先して有給休暇を取り、幹部を強制的に休ませた。

 さらに、休みが少なく残業が多い社員ほど評価が低いというように人事評価も変更した。その結果、いわゆる「ホワイト企業」であることが学生の間で評判となり就職活動期に多くの学生が訪れるようになった。

 今では、求人の100倍を超える応募があり、新卒の確保には苦労していないという。