中国EV「BYD」は日本市場に食い込めるか?成否を決める3大ポイントとはPhoto:123RF

中国のNEV(新エネルギー車)市場でシェアナンバーワンの自動車メーカーBYD社が、23年1月に日本市場にEVを投入する。かつて韓国の現代自動車(ヒョンデ)も米フォードも日本進出に失敗したが、今回の中国BYD製EVの前評価はかなり高い。テスラに次ぐ黒船・BYDは、EV後進国の日本市場に一体何をもたらすのか。経営コンサルタントの竹内一正氏が詳しく解説する。

中国自動車メーカー
BYDってどんな会社?

 BYD社とは、中国・深センに本社を構える急成長中の自動車メーカーだ。

 世界の自動車業界を襲った半導体不足も、新型コロナでの工場操業停止さえも蹴散らすようにBYDは絶好調で、今年1月~6月の純利益は前年同期の3倍に急伸し、中国のEV製造市場では約30%のシェアを誇っている。

 そのBYDが来年1月に、小型SUVのEV「ATTO3」を日本で売り出す。ATTO3の車体サイズは、トヨタが出したEVの「bZ4X」より一回り小さく、バッテリー容量は約59KWhで、航続距離は485km(WLTCモード)。前評判はなかなかイイ。

 実は、BYDはもともと自動車メーカーではなかった。

 BYDの創業者はバッテリーの研究者だった王傳福という人物だ。1995年に創業し、最初に手掛けたのは携帯電話やPC用のバッテリー製造だった。携帯電話の成長とともにBYDはバッテリーメーカーとして台頭していき、2008年には中国市場でトップシェアを持つようになった。

 そして、BYDの自動車事業は2003年に中国国営の自動車メーカーを買収してスタートし、05年には小型車「F3」を発売した。これはトヨタの9代目「カローラ」のパクリだったが、中国市場で人気を得た。

 そんな同社がEV開発を始めたのは、2006年だった。当時は米テスラが最初のEV「ロードスター」の開発で悪戦苦闘していた最中で、この年の北京モーターショーにBYDは「F3e」というEVを出展していた。

 しかし、F3eは中国での充電インフラがまだまだ不十分だったこともあり、事業的には失敗した。

 だが、ここで注目すべきは、「BYDは、米テスラがまだEVを1台も出していない時期(06年)からEV開発に着手していた」という点だ。一方で、トヨタをはじめとした大半の日系自動車メーカーがEV開発にやっと本腰を入れたのは、その6年後の12年だ。しかも、テスラが12年に出したEVセダン「モデルS」の快進撃を見たことが大きなきっかけだった。

 つまり、BYDの創業者である王傳福氏は「バッテリー事業はいずれ成長に限界が来る」と予見し、その次に手掛ける新事業として自動車、そしてバッテリー技術を駆使してEVへと、勇猛果敢なチャレンジを展開したわけだ。

 EVのコストの3分の1は、バッテリーが占めるといわれる。そのバッテリーを作ってきたBYDが自信を持って送り出すEV「ATTO3」は、保守的な日本市場に受け入れられるのだろうか?