年末年始にかけて、人材派遣大手による大型買収が相次いだ。労働者派遣法が施行されて以降、国内派遣市場は急拡大したが、2008年度をピークに縮小に転じた。大手は国内シェア拡大、海外進出に活路を見出すが、職種・地域に特徴のない中小企業は競争から引きずり落とされる。業界の再編淘汰がこれから始まる。
リクルートが大一番の勝負に打って出た。昨年12月30日、米人材派遣会社のアドバンテージ リソーシングとそのグループ会社(欧州を中心に香港、シンガポール等に拠点を持つ)を4.1億ドル(約320億円)で買収したのだ。この買収によって、リクルートはスイスのアデコ、蘭ランスタッド・ホールディング、米マンパワーグループに続き、世界4位の人材派遣会社へ躍り出た。
2010年のCSI、昨年10月のスタッフマークに続き、米社を買収するのは3例目。CSIは医療ヘルスケアの人材が豊富で、スタッフマークは軽作業に強い。アドバンテージはIT、エンジニア、財務・法務といった専門職領域に強く、3社の傘下入りによって、米国派遣市場の職種領域をカバーできる体制が整った。かねて、柏木斉・リクルート社長は「海外売上高を1000億円にする」と将来構想について明言してきたが、今回のアドバンテージ買収(米欧事業の売上高14億3100万ドル)で、一気に構想が現実のものとなった。
米国で指揮を執るのは、本原仁志常務執行役員である。人材子会社リクルートスタッフィング社長、07年末に買収したスタッフサービス・ホールディングス社長を歴任し、「採算が厳しい事業のビジネスモデルを変え、収益構造をつくるのがうまい」というのが社内の人物評だ。実際に、CSIの営業利益率を参画から1年で5%引き上げることに成功している。「CSIの経験蓄積によって、リクルート流の経営ノウハウを海外へ輸出できると確信を持てた」と、本原常務は語る。
リクルート流の代表例が「ユニット経営」である。職種・エリアで分類された各ユニットを一つの経営体と見なして大幅に権限を委譲し、各ユニットが戦略を立案、自律的に行動することでユニットごとの利益を確保する統治法だ。
人材派遣の分野では、顧客の注文は千差万別で画一的ではない。たとえば、秘書派遣のオーダーがあった場合に、語学に堪能な秘書が欲しいのか、礼儀作法ができればいいのか、顧客によってニーズが異なる。そのつど、現場で意思決定ができるよう権限を委譲し、その代わりにユニットごとの収益性への責任を負わせている。
本原常務は国内で浸透したユニット経営を米国へ移植するつもりだ。「リクルート流の経営ノウハウは持ち込むが、(被買収企業の)文化、自主性を尊重する」(本原常務)としており、リクルートの看板にはこだわらず、被買収企業の3ブランドは存続させる。