「香港→韓国→日本」のルートで
持ち込まれる

 インゴットに信用があり、金融インフラが整っていて、治安が悪くなく、そして消費税のない国・地域の代表例が「香港」である。日本では消費税8%がかかるのに、香港ではかからない。この点に着目したのが、密輸でひと儲けしてやろうという人たちだ。

 密輸スキームは割とシンプルである。消費税が課税されない国・地域で金塊を買って、消費税が課税される日本で売りさばくのだ。金塊のレートはグローバルに適用されるので、香港と日本で仮に同じレートでさばくことができれば、ザックリ8%(消費税分)の粗利益である。

 金塊取引は税関をスルーできるかが勝負の肝となる。日本に持ち込むことができさえすれば、あとは表の市場で取引するだけだ。金塊取引は密輸さえうまくいけば、「うまみのある取引」である。

 具体的には、密輸業者Aが香港で1億円分の金塊を購入する。次にAは、香港から直接に日本へ行くと税関に怪しまれるため、韓国経由で観光客になりすまして日本に持ち込む。韓国経由では、韓国の空港乗り換えエリアで、韓国発→日本着のフライトに搭乗する別の運び屋Bに金塊を「引き継ぐ」ケースがほとんどだ。下着に隠すという初歩的な隠蔽から、肛門から腸に押し込むというプロの手口までさまざまだが、日本の空港にある税関をパスするのは難しくなくなかったようだ。

 税関をパスした後、運び屋Bから密輸業者Aの仲間が金塊を受け取って仕事が完了したことになる。「難しくなかった」と書いたのは、密輸事件が多くなり報道も目立つようになり、税関が取り締まりを強化したためである。今はどこの空港に行っても金塊密輸禁止のポスターが目につくようになった。

 日本への密輸が成功した後、Aは日本の金買い取り業者Cに消費税を含めた1億800万円で売却する。このときAの利益800万円が確定する。これが密輸スキーム「1クール」となる。これを繰り返すことによって、不正な利益を積み増ししていくわけである。

 買い取り業者Cとグルになれば、Cは正規に輸出できる(輸出は消費税免税)し、CがAから買い取った際の消費税は、Cの消費税確定申告で税務署から取り戻すことができるので、自分の腹を痛めることはない。リスクは税関で摘発されること。しかし、裁判での判決が出るまでは金塊没収はされないので、仮に税関でバレても税金さえ払えば、金塊を手元に取り戻せるケースが多い。