ずっと子どものままでいると脳は発達する?!

 というのは、人間の脳の中とサルの脳の中では、だいたい同じ遺伝子が働いています。でもその働くタイミングが違うんです。脳で働く遺伝子のタイミングを比べた人がいるのですが、多くの遺伝子はサルの方が早くスイッチがオンになって、人間は遅くオンになるということがわかったんです。同じ遺伝子を持っていてもその働き方がゆっくり、つまり人間はそれだけ長い期間をかけて脳が作られていくということです。

 長い期間をかけて脳が作られていくということは、子ども時代が長いことを意味しています。子ども時代が長いと、性的に成熟するのに時間がかかるので、縄張り争いとかメスをめぐる争いなどの闘争より、遊びや、興味を持って何かを探査するとか、ぶらぶらする期間が長くなります。それが脳を育み、知性を育むことにつながっているのではないかという考え方があるんです。

 ネオテニーというんですが、ネオテニーとは幼形成熟、つまり子ども期間が長く、子どもの特徴を持ったまま大人になってしまうことです。ある時、どうやってかはわかりませんけれども、全般的に遺伝子の働くタイミングが遅いサルが生まれて、それが人間の進化につながっていったんじゃないかと考えられています。

 そういう意味でエピジェネティクスは、私たちの日常の得手不得手や、スポーツが得意とか勉強ができるとか、そういうレベルで働いているというよりは、むしろ大きな進化の長い時間のスパンで生物を変えていると思うんです。だからあまり近視眼的にエピジェネティクスの作用を見ると、大事なことを誤解してしまう可能性もあるんじゃないかと思います。

 


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