子どもに迷惑をかける親もつらい
介護の世界に入ったばかりの私は、自分よりはるかに年上のその方の突然の告白にドキッとしました。
「なんでそんなことおっしゃるんですか?」
私がたずねると、その方はこう言いました。
「私がこの病気になったせいで、まず嫁がパートを辞めた。一生懸命やってくれる。でも、それだけじゃ間に合わないから、今度は息子が仕事を辞めた。ふたりとも私のことを一生懸命面倒見てくれる」
しかし、それで話は終わりません。
「私も家族に甘えがあって、まずくもないごはんをまずいと言ってしまうし、痛くもないところを痛いと言ってしまう。夜になれば寂しくて怖いから、何度も何度も子どもを呼び鈴で呼んでしまう。それで嫁も息子もどんどん疲れてしまって、本当につらそう」
身体は動かなくても、言葉に不自由のなかったその女性は、かなり厳しい口調でご家族の方に当たっているのを私は知っていました。
「私もやりたくてやっているわけではないから、本当につらい。自分のお腹を痛めて産んだ子どもにこんなことをして生きていくくらいなら、いっそ早く死にたいの」
その方は自分を卑下するわけでもなく、淡々とそうおっしゃっていました。それは本心からの言葉だと、私は受け取りました。
これが、私がはじめて「介護離職」という現実に直面した瞬間でした。