内閣府の発表によれば、介護保険制度で「要支援」「要介護」と認定された人は2013年度末で約570万人にのぼり、日本は「誰もが介護し、介護される」“大介護時代”に突入したといえます。ただ、介護の現場では、介護する人の多くが精神的にも肉体的にも追いつめられているのが現実です。そこで、介護認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟、の家族3人を21年間にわたって1人で介護し、ブログ「介護に疲れた時、心が軽くなるヒント」を通じて介護する人たちの悩みを解消してきたリハビリの専門家(理学療法士)が、「介護の心を軽くするコツ」を紹介します。
「子どもが保育園のときに母が認知症になり、頻繁に電話がかかってくるようになりました。私の携帯だけならいいのですが、会社にまでかけるようになってきて…。育児休業を取ったばかりという負い目もあったので周囲に言うことができず、子育てとの両立にも疲れて、退職してしまいました」
Mさん(40代女性・自営業)は、大手企業に勤務するキャリアウーマンでした。
最年少で管理職になり、結婚・出産後もずっと働くつもりでがんばっていました。
ところが、母親が認知症を発症し、状況が一変してしまいました。
まだ「要支援1」で症状としては重くなかったのですが、日中1人でいるのが不安なのか、仕事中でも頻繁に電話してくるようになりました。
「いま思えば、上司にひとこと相談するだけでも違っていたかもしれません。しかし、まだまだ会社は男社会ですし、育児休業を取得したばかりの身です。自分のプライドもあって周囲に事情を打ち明けられず、『母の介護のために休みたい』と言い出すこともできませんでした」
とMさんは、当時を振り返ります。
なによりMさん自身、培ったキャリアを中断することが怖かったそうです。
さんざん悩んだ末に、Mさんは退職を選びましたが、結果的には子育てと介護に専念することができ、その点では満足しています。
その後、介護保険サービスをフル活用し、現在では、自分で事業を立ち上げ、子育てと仕事に充実した日々を過ごしています。
しかし、何の対策も取ろうとせず、あっさり退職の道を選んでしまったことを反省しています。
もし、あのとき「助けて」と言えていたら、違う選択肢もあったのではないか?
それにトライしなかった自分の判断にはいまも後悔しているそうです。