介護離職すべきでない理由(1)
辞めてしまうと再就職できず、経済的に行き詰る

私がこう考えるのは、介護そのもののつらさはもちろんですが、介護が終わったあとの人生にまで介護離職の影響が及びかねないからです。
これについては2つの観点から説明するとわかりやすいでしょう。

「職」と「生きがい」です。

親が亡くなっていざ介護が終わったとき、介護離職をしてしまった人がすぐに再就職できるとは限りません。年齢が上の方になるほどそのハードルは上がります。
親の介護のために45歳で離職し、55歳で介護を終えたある方は、これでやっと仕事ができると再就職先を探したものの、年齢がネックになってなかなか就職先が見つかりませんでした。介護中の収入は親の年金でなんとかまかなっていたのですが、その親が亡くなったため、年金収入も途絶えてしまって、途端に困窮状態に陥ってしまったのです。

「あのとき辞めなければよかった」と思ってもあとの祭り。「自分はこれからどうやって生きていけばいいのだろう」と、その方は真剣な顔でそうおっしゃっていました。

介護離職すべきでない理由(2)
親が亡くなったあとがむしろ心配

自分のすべての時間を介護に注ぎ込んできた人の中には、それ自体が生きがいになってしまった結果、親が亡くなった時点で生きる気力をなくしてしまう方もいます。

介護離職で親子共倒れ!ビジネスパーソンが「親の介護」を直接すべきでない2つの理由好評発売中!

母親が病院で亡くなった一週間後に、ずっとひとりで介護をしていた息子さんが、自宅で首を吊って亡くなったというケースも実際にありました。
彼は老人ホームのショートステイに母親を定期的に預けにきていたのですが、そのときも本当につらそうで、「(自分で面倒を見ずに預けてしまって)申し訳ない」という感じでした。介護施設の職員から「あなたはもう十分すぎるほどやっていますよ」「いつ入居に切り替わってもこちらは大丈夫ですよ」と伝えて気持ちをほぐそうとしていたのですが、残念な結果となってしまいました。

自分から「つらい」「限界だ」と言える方は、私たちから見るとまだ安心です。訴えがあれば手を打てるからです。全然連絡がなかったり、なにを聞いても「大丈夫ですよ」と気丈に振る舞ったりする方のほうがよっぽど危ない。
私たち専門職には、ご家族の方を支援するという役割があって、さんざんそれを習ってきているはずなのに、日々の業務に追われる中で、どうしても発信力の弱い方のつらさに気づくのが遅れてしまいます。
そんな中、ある日突然「◯◯さんが電車に身を投げた」という知らせが届いたりする……。自分の無力さを思い知らされる場面です。