いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。

徳川治世の礎となった井伊直政の遺言力

家康の天下取りを支えた
井伊直政の想い

 昨年、大河ドラマ「おんな城主 直虎」が話題になりました。井伊直政を育てた遠州井伊谷の女領主、井伊直虎こと次郎法師を主人公とした物語です。柴崎コウ演じる直虎と菅田将暉の直政の火花散る演技がとても魅力的で、私も毎回欠かさず見ていました。

 井伊直政は徳川家康の忠臣で、徳川の四天王、徳川十六神将、徳川三傑に数えられ、家康の天下取りを全力で支えた功臣として、彦根藩の藩祖となりました。直政は小牧・長久手の戦いや関ヶ原の戦いなどで数々の武功があり、交渉能力にも長けた人物でした。

 関ヶ原の戦いでは、直政は松平忠吉(徳川家康の四男、井伊直政の娘婿)とともに先陣を抜け駆けし、戦いの終盤で島津義弘の退却(島津の退き口)を防いだがために大けがを負い、関ヶ原の戦いの翌々年(慶長7年、1602年)に40歳の若さで死去しました。

 遺体は遺意により、当時、芹川の三角州となっていた場所で荼毘に付され、その跡地に長松院が建立されました。

 亡くなる2週間前に、ふたりの息子に遺したと伝わる遺言には次のようにありました。

「成敗利鈍に至りては 明の能く逆め睹るに非ざるなり」

「成功と失敗、賢いか愚かであるかは、あらかじめわかることではない。だからこそ、ひたすらに行動するしかない」という意味だとされています。