「隣の部署で注意されると落ち込みすぎてしまい、仕事が手に付かなくなる若手がいて、指導する課長はほんとに困っているんですよね。それを見ているので、B君についついきつく注意しすぎた時にはこっちがかえって気になってしまいます。ところがフォローしようとすると、『大丈夫です、僕はそういうのまったく気にならないんで』とケロッとしているので助かります」

 それを聞いて、ここにもポジティブの弊害が見られるのを感じたため、私はA課長に問いかけた。

「Bさんの『まったく気にならない』っていうところが、むしろ問題なんじゃないですか?」
「(沈黙)……?あっ、そうですね。なるほど。人に言われた言葉で傷ついたり落ち込んだりしにくいってことは、現状の認識が甘く、都合の悪いことをあまり深刻に受け止めないってことだから、こちら側の注意もB君の心に入っていかないわけですね」

 管理職が長いA課長はさすがに呑み込みが早く、ポジティブの弊害に気づいたかのような疑問をぶつけてきた。

「B君には『少しネガティブになってもらう必要がある』ということですか?」

「ネガティブ」というと誤解される怖れもあるため、私はこんな助言をした。

「ネガティブになってもらうというよりも、少し不安を感じさせる程度の心の状態に持っていく、っていうところですかね」
「というと、具体的にどうしたらいいのですか?」
「人は先のことを考えると、つい不安になってしまいますよね?『もしこんなことになったら、どうしよう』『こういう事態になったらどうしたらいいんだろう』『そうならないためにはどうしたらいいんだろう』っていうように……」
「なるほど。先のことはよくわからないから、あらゆる事態を想定して考えるようになれば、少しは不安を感じるようになる、っていうことですね」
「そうです。B君には先読みのシミュレーションをする習慣をつけさせたらよいかもしれませんね。例えば、取引先に営業に出かける時、先方からどんな質問があり得るかとか、どんな要望が出てくる可能性があるか……というようにです。それによって、用意周到な準備と心構えが作られていくはずです」

 話がここまできた時、A課長は日頃疑問に思っていた「社風」について切り出した。