パワーのない人間ほど
陰湿で卑劣なパワハラに走る

 自分が批判する際にはフル活用するロジックを、自分が批判される側になった途端に支離滅裂だと切り捨てる、という完全に「ダブルスタンダードの罠」に陥ってしまっているのだ。これをブーメランと呼ばずしてなんと呼べばいいのか。

 谷岡学長は「栄はその程度のパワーしかない」として、「パワーのない人間が、パワハラをおこなうことができるのか」と憮然とした表情でマスコミに怒りをぶちまけた。

 立派な大学を率いる教育者の方に対して、生意気なことを言うようだが、歴史を学べば、パワーのない人間ほど陰湿で卑劣なパワハラに走りやすいということがご理解いただけるのではないだろうか。

 暴力というものは、水と同じで高いところから低いところへ流れるからだ。

 旧日本軍でも、下等兵士が上官からいじめられていた部隊の軍馬は尻がボコボコに蹴られて痣だらけだったという証言記録がある。パワーのある上司からハラスメントを受けたパワーない人が、そのフラストレーションを晴らすかのように、自分よりもさらに弱い立場の馬を虐待するのだ。

 もちろん、だからといって栄監督が「クロ」だと言っているわけではない。学校経営の名門一族に生まれ、政治家も経験し、日本のレスリング普及のために尽力をされているパワーエリートの谷岡学長にはなかなかピンとくる話ではないかもしれないが、被害者へ向けられるハラスメントというものは、パワーの大きさだけが問題ではないと申し上げたいのだ。

 セクハラやパワハラがあったかどうかはまだわからないが、「被害」を訴える人々がいるのは紛れもない事実だ。

 そのような「被害者」に対して「嘘をつくのはやめろ!」と怒りで反撃するだけでは何も解決しないというのは、従軍慰安婦問題で日本政府の謝罪を求めていた谷岡学長ならばよくわかっているはずだ。

 日本のレスリング界のためにも、伊調馨さんというひとりの女性の幸せのためにも、谷岡学長には教育者らしい寛容な心で、解決の道を模索していただきたい。