シリコンバレーに拠点を置くアップル、グーグル、フェイスブック、エアビーアンドビー、ウーバー……といった企業は、どうやって次々と大きなイノベーションを起こしているのか? 新刊『シリコンバレー式 最高のイノベーション』では、22ヵ国でスタートアップを支援するインキュベーター&アクセラレーター会社のCEOである著者が、シリコンバレーで起きているイノベーション成功の秘密を初公開! 小さなアイデアが大きな変革をもたらし、世の中を一変させるプロセスを、多くの実例を紹介しながら解き明かす。起業家、企業のオーナー、ビジネスパーソンを問わず、あらゆるビジネスに応用できるイノベーションのヒント。本連載では、その基本中の基本である「小さく、少なく始める」コツについて10回にわたって紹介していきたい。

大きな予算は可能性を閉ざす

大金を調達したばかりに<br />大コケしたスタートアップ©Richard Zeiger
[著者] スティーブン・S・ホフマン
ファウンダーズ・スペース社代表、シリコンバレー業界団体組合議長、ニューメディア評議会理事、インタラクティブ・メディア・アカデミー創設者。カリフォルニア大学でコンピュータ工学の理系学位を取得した後、南カリフォルニア大学でシネマテレビジョン・プロダクション美術学修士号を取得する。その後、さまざまな業界や職種に携わり、シリコンバレーでベンチャーキャピタルによるスタートアップを数社起業した後、起業家や社内起業家の支援を目的にファウンダーズ・スペース社を設立。現在、世界22ヵ国に50を超えるパートナーを持つ世界的アクセラレーターである。
[訳者] 関 美和(せき・みわ)
翻訳家、杏林大学外国語学部准教授。慶應義塾大学卒業後、電通、スミス・バーニー勤務を経て、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経て、クレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。主な翻訳書に、『ハーバード式「超」効率仕事術』『ファンダム・レボリューション』(共に早川書房)、『シェア』『MAKERS』『ゼロ・トゥ・ワン』(いずれもNHK出版)、『Airbnb Story』『「おカネの天才」の育て方』(共に日経BP社)などがある。

おカネがないほうがイノベーションが起きやすいのはなぜだろう?

予算が多いほうが、リソースも人材も多く、進歩も速く、結果もいいと思いがちだ。

でも、そうとは限らない。

じつのところ、イノベーションチームが多額の予算を要求する場合には、その費用を正当化できるような提案を出さなければならない。

会社がその提案を認めると、イノベーションチームはその計画を実行して結果を出すことへのプレッシャーを感じるものだ。

そうなると、新しい道を自由に模索できなくなる。

一方で、早い時点で焦点を絞ることが命取りになる場合もある。

イノベーションとは模索そのものなのに、詳細な提案を出した時点で計画に縛られる。

現実には、その時点ではそれが正しい計画かどうかわからないし、計画どおりに実行できるかどうかもわからない。

新しい可能性を開くどころか、可能性を閉ざしてしまうことになる。

大きな予算のもう1つの欠点は、チームが大人数になってしまうことだ。

チームリーダーは目標を定め、スケジュールを立て、タスクを割り振り、進捗を記録しなければならなくなる。

するとチームの視野はますます狭くなり、他の選択肢が開かれなくなる。

でも本来、イノベーションチームが初期にやるべきことは反対で、発見と実験に集中するべきなのだ。

アイデアを絞って、計画を立て、それを実行することは、イノベーションのプロセスとは正反対だ。

イノベーションは、さまざまな可能性に心を開き、新しいアイデアを試し、それがダメでも失敗から学び、森の中に分け入って、まだ見ぬ何かを見つけようとすることから生まれる。

チームが指示待ち社員でいっぱいになると、リーダーはただの管理職になる。

リーダーとマネジャーの役割は全く違う。

チームが大所帯になればなるほど、部下も上司も方向性を変えるのがおっくうになる。

たとえ、方向性が間違っているとデータが示していても、方向転換しにくい。

だが、素早い方向転換こそイノベーションの真髄だ。

そこでチームは学び、ブレークスルーが生まれる。

予算が多く、計画に従うプレッシャーが大きいほど、方向転換は難しくなる。