2億ドルも使ったのに、
ユーザーの欲しいものがわからない
これはよくあるパターンだ。
準備の整わない時点でスタートアップが大金を調達すると、大コケする。
〈ファブ〉もまた、そんなスタートアップの1つだ。
ECサービスを提供するファブは、2億ドルを使い果たしても、有効なビジネスモデルを見つけられずじまいだった。
もしそれほどおカネがなかったら、優れたビジネスモデルを見つけていたかもしれないと僕は思っている。
でもおカネがあったせいで、失敗してしまった。
ユーザー獲得に莫大な費用を投入する余裕があったせいで、そのユーザーを維持できないという現実に目を向けることができなかったのだ。
ファブのジェイソン・ゴールドバーグCEOは「この2年で2億ドルも使った。2億ドルだ! それなのに、ユーザーが何を欲しいのかがまだわかっていない」と書簡に書いていた。
そんな創業者はゴールドバーグだけではない。
スタートアップが厳しい現実から目をそらすためにおカネを使い、投資家も自分も欺いているというケースは多い。
とりあえず時間を稼いで物事を軌道に乗せようと思っても、実際には現実を避けているにすぎない。
おカネのおかげで、問題から逃れることができるのだ。
本当のプロダクト・マーケットフィットを見つける前に資金調達をすると、そうなってしまうのは無理もない。
今、僕は、投資家から多額の資金を調達して次世代のIoT機器を開発中のスタートアップを手がけている。
彼らは資金がうなるほどあるので、大人数のチームを雇い、ビジネスの基本的な問題から目をそらす余裕がある。
ユーザーは誰か?
彼らは具体的に何を望んでいるのか?
それらをまだ突き止めていない。
僕は彼らに面と向かって「研究開発を止めて潜在ユーザーを引き入れることに時間を使ったほうがいい」と言った。
しかし、投資資金が流入すればするほど、問題から目をそらしがちになる。
創業者は、最高のテクノロジーを開発することを優先させていいというお墨付きを投資家が与えてくれたように感じてしまうのだ。