超親水性の特殊素材を陶器に
直接なじませる

 2016年2月、LIXILグループから、日本はおろか世界の衛生陶器業界を驚かせた新型陶器が発表された。「アクアセラミック」の開発・商品化に取り組んだのが、榎戸工場に勤務する2人だった。

 まず、技術を開発したR&D本部マテリアルサイエンス研究所に所属する奥村承士と、その技術を世に出せるように整えたトイレ・洗面事業部衛陶商品開発グループのリーダーだった谷口慎介(写真。肩書はいずれも当時)である。

 旧INAXでは、1990年代前半から衛生陶器のコーティングによる抗菌・加工の開発を進めてきたが、二律背反する「汚物汚れ」と「水アカ汚れ」を同時に防ぐ方法は見いだせなかった。

 99年には、当時の技術で最先端だった「プロガード」仕様の便器を発表する。しかし、課題が解決できたわけではなかった。

 当時の技術者が心残りだった点について、谷口はこう解説する。「衛生陶器の表面に特殊な抗菌加工を施すことで、水アカの固着は抑制できた。だが、撥水性(水をはじく性質)を重視したことから、油分が多い汚物などは流れにくいという別の問題も起きていた」。

 その後も、数多くの研究者により、汚物汚れと水アカ汚れを同時に防ぐという独自の研究は続けられたが、14年になって突然、積年の難題は大きな転換点を迎える。

 日夜この問題と格闘していた研究員の奥村はあるとき、数年前に従事したFRP(繊維強化プラスチック)の配合・成型技術を活用することを思い付く。

 それは、一般的なコーティングではなく、陶器そのものの表面に、汚物汚れを防ぐ超親水性(水によくなじむ性質)を有する特殊な素材をなじませて一体化させれば、長年の問題が解決できるのではないかと考えたのである。

 この発想が、ブレークスルーとなり、社内でアクアセラミックの研究・開発が一気に進む。谷口は、「陶器の表面が水になじみやすい超親水性なので、便器の表面に付着した汚物の下に水が入り込んで浮き上がらせ、水の力で押し流すことができる」と力を込める。

 とはいえ、20年越しで開発した大型技術には、思わぬ落とし穴が待っていた。奥村の発見を新製品に落とし込む過程で直面した最大の難関を、谷口はこう振り返る。

「超親水性が実現したことで、水の流れが良くなり過ぎた。洗浄水が勢いよく便器の外に出てしまうという想定外の事態が起きた」