その日仕事の後、森嶋は村津に連れられ、渋谷に出た。
2人で道玄坂にあるカウンターだけの小さな居酒屋に入った。
村津はマスターに目で挨拶すると、カウンターの奥に座った。
「久し振りですね。もう死んじゃったかと思っていました」
マスターがコップを持ってきて言った。
「1年半振りか。山奥に引きこもっていたよ」
マスターは村津の前に焼酎の一升瓶を置いた。半分近く残っている。
「1年半前の焼酎がどうなってるか、私は知りませんからね」
「とっくに誰かに飲まれてるかと思ってた」
「何度か話には出ましたが、あとが怖いですからね」
マスターは笑いながら言った。
「きみが腐っているんじゃないかと思ってね。こんなところだが、飲んでくれ」
村津は森嶋のコップに焼酎をつぎながら言った。
「こんなところはないでしょう」
マスターが肴を持って戻ってきたが、2人の様子を見て他の客の方に行った。
「総理と大臣に大体のところは聞いた。きみが話してくれたのとほぼ同じだ。しかし、実際に首都移転を考えているのかどうか。たんなるアメリカに対する対応処置なのか。政治家というのは、どうも本音のところは分からない。彼らがどこまで本気か。ところで、この提案はきみらしいね。随分思い切ったことをやったものだ。なにか誰も知らない情報を知っているのか」
「同じようなことをいろんな人から何度も聞かれました。情報量は同じだと思います。二つのレポートと、現在の世界と日本の情勢。そしてアメリカ大統領の要請」
「なぜ、きみだけは違うんだ。他の連中はとんでもないところに飛ばされたと嘆いている。かといって元の省に戻る勇気もない。すでにことは始まっているというのに」
「チームの半数は覚悟を決めています。残りは知りませんが」
「そうかな」
「最終的には、情報の認識だと思います。なにが重要で、今後何が起こるか」
「もっと具体的に言ってみろ」