森嶋は考えた。

「総理以下、閣僚たちはどの程度の認識ですか」

 彼らの言動とスピードから考えると、必ずしも本当の危機意識を持っているとは思えなかった。アメリカ大統領がわざわざ特使を送ってきた。対応だけはしなくてはならない、その程度の認識なのではないか。

「私も彼らの真意は計りかねている。目先の経済対策で精いっぱいだろう」

 実は、と言って村津は手元のグラスに目をやった。

「私も最初はクサっていた。いよいよ、自分もこれで終わりと諦めたんだ。しかし、いざ調べ始めるとなかなか面白いと思い始めた。そればかりじゃない。本気で日本もそろそろ遷都すべきだという考えに変わってきた。何もこの過密した東京をこのまま日本の首都にしておく理由はないとね。いやむしろ、政治と経済の中心が一つということで生じるデメリットのほうが多いんじゃないかと思い始めた。経済界の幅広い声を聞きながら、日本を発展させる政治を行う。聞こえはいいが、政界と財界との癒着のほうが深刻になる」

「でも、村津さんは室長を辞任して役所を辞めたんでしょ」

「あまりにのめり込みすぎてね。上司のやり方が我慢できなかった」

「やり方というと──」

「上は首都移転なんて、はなから考えてはいなかった。世論を中心に、そういう風潮だったので、いずれ解散することが分かった上で作った組織だ。国民にとっては税金の無駄。私にとっては人生の無駄ってわけだ。それに私だけじゃなく、若手がいたからね。私についてきた者もいる。私だって首都移転なんて夢物語だと分かってはいたが、信じたくなかったというのが本音だ」

 そのとき、ドアが開いて一人の女性が入ってきた。

 入口で立ち止り、中の様子をうかがっている。

 どこかで見たことがある、と思っていたら森嶋たちのほうにやってくる。村津の娘の早苗だ。

 「遅かったな」

「事務所を出るのが遅れたのと、お店が分からなくて」

 たしかに初めての者には分かりにくい場所にある。