恋愛は生存をかけた競争戦略

 これは実は男女間の恋愛において、いかに持続的競争優位を確保するか、という観点で話をすると実にわかりやすい。

 恋愛は性淘汰という生物の進化の歴史の大きな要素の一つであり、その時々に、自らのDNAを残すという生存戦略が存在しており、戦略を考える上で、大袈裟でなく、極めて重要な示唆を与えてくれる。

 もしあなたが男性で、ある女性とお付き合いしたいと考えたとする。そのとき、あなたはどうアプローチするだろうか? 彼女をとりまく恋愛市場環境を分析し、あなた自身、その市場においてどこにポジショニングするかを明確化、そのポジショニングに位置するあなた自身を認知、理解してもらえるよう、声をかけたり、プレゼントをしたり、お店に連れて行ったりするだろうか?

 それとも、もしあなたがスポーツ万能で、美声の持ち主だったならば、それを手っ取り早くアピールするために、一緒にスポーツをしたりカラオケに行くなどして、あなたの強みについて最大限アピールするように努めるだろうか?

 いずれも、相手によっては功を奏するかもしれない。しかし、ポーターのポジショニング戦略よろしく、うまいポジショニングを取っても、移り気な相手の女性は一度「ああ、こういう立ち位置の人なのね」と思ったら二度と振り向いてくれないかもしれないし、バーニーのRBVよろしく、あなたの強みである運動神経や美声をアピールしたところで、彼女はスポーツにまったく興味がなく、カラオケを親の仇のごとく嫌悪する女性かもしれない。

 ある程度の恋愛経験のある者なら、普通に考えれば、そのようなアプローチは取らないというのはわかるだろう。まずは、何よりも彼女自身を知ろうとするはずだ。

 その女性は何が好きで、何が嫌いで、何を欲していて、何に悩んでいるのか。どういったサポートを男性から得たいと思っているのか、彼女が男性と付き合いたいと思うようなシチュエーションは何なのか、付き合うことで手に入れたいと思っている気持ちは何なのか。そこまでわかれば、その女性はあなたの手中に落ちたも同然だ。

 あなたがやるべきは、そんな彼女の気持ちになりきること、すなわち彼女への「共感」を通じて、彼女が抱える問題が何なのかを「定義」し、その上で彼女が何を望んでいるか、アイデアを「創造」し、まずは気軽にあらゆる手立てを試して、うまくいかなければ、次の手立てを試すという「プロトタイプ」の「テスト」を繰り返すことだ。つまり、必要なのは、まさにデザイン・シンキングなのである。

 これまで何度も「デザイン・シンキング」に関する書籍を読んだり、講演を聞いたけれども腑に落ちなかった人は、この男女の恋愛戦略の話を覚えていれば十分である。

 ただし、もう一つだけ覚えておいて欲しい。それは、これまでの歴史上に現れてきたディスラプター(破壊者)たちの思考には、常にこのデザイン・シンキングがあり、現代のメディアの進化によるディスラプション(破壊)の時代にも例外なく当てはまるということだ。

 例えば、アマゾンはその典型とも言えるディスラプターであり、だからこその強さをこの時代に発揮しているのである。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)