しかし、当時の本田や長友を彷彿とさせる存在が、特にブラジル大会以降の4年間で残念ながら現れなかった。サッカーに限らず、チャンスは与えられるものではなく、自らもぎ取るものだとよく言われる。南アフリカ大会で強烈な存在感を放った本田や長友は、紛れもなく後者だった。

 ハリルホジッチ前監督は対照的に、アジア最終予選という真剣勝負を戦いながら、チャンスを与える側にも回った。それだけ日本サッカー界全体が迎えようとしている、未曽有の危機を感じ取っていたのだろう。いつしかメディアの間で「ビッグ3」と呼ばれるようになった本田、香川、岡崎を外すようになったのも、指揮官が主導する形で新陳代謝を促すという、切実なる思いの表れだったのではないか。

日本サッカー界が抱える
選手育成の根本的な問題が明らかに

 まさに青天の霹靂とばかりに、急きょバトンを引き継いだ西野監督は、最後は現実的な決断を下した。コロンビア代表をはじめ、セネガル代表、ポーランド代表と格上との対戦が続くロシアの地で惨敗を喫すれば、それこそロシア以降の未来に何も残せない事態が生じかねない。そうしたリスクを踏まえながらも、経験と実績を優先させた決断には、JFAを含めた日本サッカー界全体が抱える、選手の育成に関わる根本的な大問題が反映されていると言っていい。

「今までとは恐らく違う状況で、違う感覚を持った中で(ロシア大会の)ピッチに立っていかなければならない。初めてワールドカップを体験する選手たちには難しいアプローチであり、その意味でも経験値のある選手たちが大事になってくる。本当にコンマ何秒、数センチといった戦いの中で勝敗が決まる世界なので、厳しい瞬間を想定させながら準備していきたい」

 西野監督は記者会見の席上で、中堅やベテランを数多く招集した理由の一端をこう説明した。前任者が標榜した縦のスペースに素早くボールを入れるスタイルから、相手のスタミナを奪う意味も込めて、日本が得意と位置づけてきた中盤でボールを動かす時間帯を増やしていく。

 4年前のワールドカップで一敗地にまみれ、悔し涙とともに否定されたスタイルに近い戦い方へ回帰していくことは、最悪の場合、時計の針がブラジル大会前にまで逆戻りしかねないことを意味する。さまざまなリスクとプレッシャーを背負いながら、西野ジャパンは2日に日本を出発。8日のスイス代表、12日のパラグアイ代表とのテストマッチをへて、13日にロシア国内のキャンプ地・カザンに入る。