ワールドカップ・ロシア大会に臨むサッカー日本代表が激震に見舞われた1週間だった。9日に緊急会見を開いた日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長(60)は、日本を6大会連続6度目のワールドカップ出場に導いたヴァイッド・ハリルホジッチ監督(65)との契約を解除したと発表。12日には後任監督に就いたJFAの西野朗・前技術委員長(63)の所信表明会見が行われた。3月下旬のベルギー遠征でチーム内に生じた、指揮官と選手間のコミュニケーション不足や信頼関係の脆弱化が引き金となったとされる、本番まで2ヵ月あまりに迫ったタイミングでの電撃的な指揮官更迭劇。本来ならば一蓮托生となるべき西野氏が新監督に就く、異例にも映る人事を含めた舞台裏を追った。
前代未聞の「大なた」
同じ場所で開催された記者会見でも、醸し出される雰囲気はまったく異なっていた。日本サッカー協会やJリーグが階上に入る、東京・文京区のJFAハウス1階にあるバーチャルスタジアムには、4日の間に2度も十数台のテレビカメラが立ち並び、大勢のメディアが駆けつけた。
ひな壇に座ったのは9日午後がJFAの田嶋幸三会長で、12日午後が田嶋会長と日本代表の西野朗新監督。そして、背景はJFAのロゴマークだけが掲出された青色の無地から、日本代表のオフィシャルパートナーやオフィシャルサプライヤーのそれがずらりと並んだ華やかなボードに変わっていた。
前者は当日の午前中に開催が緊急告知された、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の解任会見であり、後者は後任として約2ヵ月後に迫ったワールドカップ・ロシア大会に臨む新指揮官の就任会見だった。あまりにも衝撃的でネガティブな発信力を伴う解任会見だからこそ、写真や映像に必ず映り込む背景には協賛企業に対する最大級の配慮が施されていた。
極秘で渡仏し、現地時間7日午後6時にパリ市内のホテルで会談したハリルホジッチ氏に契約を解除する旨を伝えたと、田嶋会長は9日の緊急会見の冒頭で発表した。3月下旬のベルギー遠征でチーム内に生じた、看過できないほどの好ましくない変化が決断への引き金になったと明かしている。
「マリ代表戦とウクライナ代表戦の後に、(ハリルホジッチ監督と)選手とのコミュニケーションや信頼関係の部分が多少薄れてきた。それが最終的なきっかけになったのは事実であり、それまでのさまざまなことを総合的に評価して、今回の結論に達しました」
プロ契約が導入されるようになった1992年以降の歴史を振り返れば、日本代表監督の解任は決して珍しくはない。1994年の広島アジア大会の順々決勝敗退をもって更迭された、ブラジル人のパウロ・ロベルト・ファルカン監督をはじめとして、5人が任期途中で退任している。
しかし、日本代表がワールドカップの出場権を獲得した後に、それも本大会が開催される年に任を解かれたのはハリルホジッチ氏だけとなる。当然ながら素直に受け入れてもらうことができず、田嶋会長は「やはり驚かれていたし、動揺も怒りもあった」とこう続けた。