9日夜、東海道新幹線で起きた殺傷事件は、新幹線のセキュリティ対策の限界を改めて浮き彫りにした。東京オリンピックまであと2年。JR各社はセキュリティ対策の強化を迫られるのは必至だが、そこには大きな難題がある。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
繰り返される新幹線内での凶行
防犯カメラ整備は進んだが…
9日夜、東京駅21時23分発「のぞみ265号」新大阪駅行きの後方車両で、ナタのような刃物を持った男が暴れ、乗客3人を切りつけるという事件が発生した。
神奈川県警によると、新横浜駅を発車した後の21時50分頃に「人が刺された」との110番通報があり、列車は小田原駅に緊急停車。駆け付けた警官によって男は逮捕された。警察と消防は30代の男性1人が死亡、20代の女性2人がけがを負ったと発表した。逃げ場のない新幹線車内で発生した惨劇に衝撃が走った。
実は新幹線車内で乗客が死亡する事件が発生したのはこれが初めてではない。1993年8月23日20時25分頃、博多発東京行き「のぞみ24号」が静岡県掛川市付近を走行中、40代の男性がナイフを持った男に刺殺される事件が発生している。のぞみ号は新富士駅に緊急停車し、駆けつけた静岡県警の警官が男の身柄を確保した。
また記憶に新しいのは、2015年6月30日11時40分ごろ、東京発新大阪行き「のぞみ225号」の1号車で、71歳の男がガソリンをかぶってライターで火をつけ、車内で火災が発生した事件だ。列車は小田原市内で緊急停止して、乗務員が消火器で火災を消し止めたものの、火災によって発生した煙で52歳の女性が死亡、乗客26人と乗員2人の計28人が重軽傷を負った。
東海道新幹線では乗務員への暴行や運行妨害への対策として、2010年に導入を開始したN700系車両からデッキに防犯カメラの設置を開始していたが、放火事件を受けてすべての車両の客室内に防犯カメラを新設すると発表。17年12月にはJR東海が保有する新幹線車両のうち9割で防犯カメラの設置が完了し、20年度初めには全編成への整備が完了する見込みと発表されたばかりだった。
このカメラは列車内のハードディスクに常時録画し、運転席などから映像を確認することが可能であるが、基本的には事後の捜査に役立つ設備であって、「見せる防犯」の観点から抑止効果を期待する以上の意味を持つものではない。今回の殺傷事件で、いかに防犯カメラを設置しようと、明確な悪意・犯意を持った犯人に対しては何ら効果がないことが露呈してしまった格好だ。