就職の内定をもらうと、真っ先に祖父に伝えた。一番喜んでくれたのも祖父だった。ところが就職して間もなく祖父は亡くなった。心の支えを失ったことも、彼の精神状態に影響しているのかもしれないと思った。

 その日のカウンセリングは、ずっと仕事の話を聞いた。話をしていく中で、彼の心の奥底で眠っていた熱意が蘇った。暗かった表情が明るくなり、弱々しかった言葉に力がこもるようになった。

「休んでいる場合ではないですね」

 ひと息つき、彼は私にこう言った。

「休んでもいいんですよ。ただ、高齢者を支えるという大きな仕事の目的があるのですから、そのためにやることもたくさんありますよね」

 その日を境に、西田さんは弱音を吐かなくなった。気持ちが前向きになり、視点が変わった。目の前の嫌なことにとらわれていた西田さんの目線は、その先にある目的に向かって進むようになった。

狭い世界の常識を打ち破る
手助けをしてほしい

 西田さんが休職中に旅行していた話を聞いて、皆さんの中には「怠けたいだけ」「遊びたいだけ」と思った人もいることだろう。

 確かに、一理ある。人はたいてい楽な方に流れるものだ。西田さんの頭の中にも、好きなことだけして暮らしたいという気持ちはあった。

 しかし、原因はそれだけではない。働く目的、働き方、会社の価値の感じ方などが近年多様化している。SNSが普及し、価値観が合う人だけで集まれるコミュニティができている。

 そういう環境に浸ることで、その世界でしか通用しない独特の常識が醸成されていく。「会社の飲み会は時間の無駄」「仕事はお金を稼ぐ手段」といったことも、小さなコミュニティ内でのみ通用する常識だ。社会経験が少ない若い人は、それを社会全体の常識と勘違いしやすい。つまり未熟なのだ。そこを修正することも上司の役目の1つだろう。

 部下が常識外れな行動をした時、上司が「非常識な新人だ」と一蹴するのは簡単である。しかし、それは部下を切り捨てるのと同じだ。なぜなら西田さんのように積極的に改善を提案できる人材を潰してしまうことにもつながりかねないからだ。そういう時こそ、部下がどんな考えで行動したのか聞いてあげてほしい。

 すると、彼がどんなことを常識と捉えているかが見えてくる。社会の常識とのズレも分かる。そのズレを把握した上で、上司や先輩たちがこんな声かけをするだろう。

「そういうやり方をすると、こう見られちゃうよ」
「そういう行動をとると損するよ」

 このように伝えれば、会社で置かれる自分の立ち場がわかってもらえるだろう。そうは言っても、部下は社内のことから取引先のことまでいろいろな不満を持っている。そんな部下に対し、上司はどんなことをすればいいのだろうか。