2017年の「適温相場」は18年1月の米国金利の急上昇で変調の兆しを見せ、2月にVIX指数の急上昇が株式市場にも波及し、3月にはトランプ米大統領が鉄鋼、アルミニウム製品に輸入関税を課すと発表したことから、投資家の心理はリスクオフに傾いた。
日本では森友問題から安倍内閣の支持率が10ポイント以上低下した。海外投資家はこれらのイベントが二つの面で日本株にとってマイナスとみた。第一に、貿易立国の日本は貿易摩擦で悪影響を受けるという、実体経済から企業業績へのマイナスの影響。第二は、リスクオフになり、リスク逃避資産としての円が買われ、円高による企業業績へのマイナスの影響だ。
実体経済を世界の投資家が懸念するのは、こうしたネガティブイベントが一過性であると割り切れないからであろう。世界の中央銀行は長期にわたる量的金融緩和の終了に動いており、アベノミクスも新味を打ち出せないでいる。
景気、政策、市場サイクル的にも注意が必要であることは、1月22日の本欄で「アベノミクス相場には、世界各国の中央銀行の量的緩和の終了という新たな試練が待ち受けている。18年は17年と違う展開の一年になるのではないか」と述べた通りである。
懸念すべき要素はあるが、下げ過ぎ相場であれば投資チャンスを探す必要もある。現在の投資家心理は米中の貿易摩擦問題や安倍政権の行く末に十分に悲観的だろうか。
そのヒントは、海外投資家の売買動向である(次の図参照)。海外投資家は今年に入って3月末までに7.7兆円の日本株を売り越した(うち5.1兆円は先物)。この7.7兆円はアベノミクスが始まってから昨年末までに海外投資家が買い越した金額の約半分であることを考えると、いかに海外投資家がリスクオフに動いたかが分かる。
もし海外投資家の売りが止まり、買い戻しが入れば日本株は短期リバウンドに向かうとみる。というのは、年末までに日本銀行は4兆円のETF(上場投資信託)の買い入れ余力があり、事業会社の自社株買いがあと2兆円程度見込まれるからだ。
海外投資家のリスクへのスタンスはドル円の動きに表れる。最近の円高はリスクオフによるものと考えられるからだ。リスクオフがどの程度進んだかという意味で、シカゴのドル円先物ポジションは注目に値する(先ほどの図下参照)。
円売り(円が安くなると期待している)ポジションが最近急速に縮小しており、ポジション整理は相当程度進んだとみる。今後も政治イベント、企業業績の発表が続くが、リスク要因は相当織り込まれたとみて、前回に続き相場の短期リバウンドを見込む。
(UBS証券ウェルス・マネジメント本部ジャパンエクイティリサーチヘッド 居林 通)