理学系の人は工学系に来てほしい
ちきりん だとしたら、学部の時は物理を勉強していたとしても、このまま続けてもアカデミックポストも足りない、就職もムリ、それなら途中から工学系の研究に変わるということも選択肢に入れていいのではないですか?
竹内 そうなんですよ。スタンフォードの金融の先生だって、もとは物理学者だったりしますよね。それに、就職の時に、分野を変えるのでもいいですし。
ちきりん いわゆる、ロケットサイエンティストが金融界にはたくさんいますよね。
竹内 私もそういう例をたくさん見てきたので、理学系のドクターを再教育したいと思っているのですが、応募が来ないんですよ。
ちきりん おもしろいですね。なぜ来ないんですか。彼らだって、いまのままでは将来が見えてこないのに。
竹内 自分がやってきた研究から外れるのが嫌なのでしょうが、それがサバイバル能力がない、ということですね。
ちきりん たしかにそんなに生存能力のない人なんて、だれも雇いたくはないかも……(笑)。
竹内 だから雇われないんです。ただ、いまでも日本ってお金に恵まれているんですよ。少しやる気があって、少し機転が利けば、それだけでチャンスがあります。
ちきりん 工学系はそうかもしれませんが、理学系は切実な問題ですよね。アカデミックポストにつけるのは、10人中、3人くらいですか。
竹内 もっと少ないかもしれませんね。10人中、1人とか。
ちきりん では9人の人は大学界にポストを見つけることができないわけですよね。ところがちょっと横を見れば、工学系は景気が良さそうだとわかる、宗旨替えをして工学系にでも行ってみようかな、となぜ思わないんですか。なんだかスゴク不思議です。もしかして、工学系を下に見ているとか。理論物理のほうが電子工学より上だと思っているとか?
竹内 当然、思っているでしょうね。私だってそう思っていたんだから。
ちきりん でも先生は宗旨替えされたじゃないですか。金儲けに近い学問は俺様がやるべき高尚なものじゃない、仕事がないのはドクターを増やした文部科学省のせいだ、だから責任とれ!みたいな人ってなんなんですか?
竹内 ただ、そういうことを言っておれるのも、生きていけるからですよ。アメリカで金融に移った物理学者なんて、絶望的なくらいポストがなくて、さすがにヤバいと思って移ったわけですよ。日本のエンジニアがなぜ沈みゆくタイタニックを見限らないかという、今回、ちきりんさんと話し合ってきたテーマと同じことです。これまでは、それでも生きていけたからなんです。親と同居しているとか、これまでの蓄えがあるとか、理由はいろいろあると思いますけど。
特に大学の基礎的な実験をしている分野では、ドクターやポスドクがたくさんいますよね。とても全員、ポストには就けるとは思えない。受け皿が少ない。けれども、エレクトロニクスは腐っても鯛で、産業が大きいので、大きな声では言えないけど、相対的にはチャンスが多いのです。
ちきりん もう、大声で言ってらっしゃいますよ(笑)。でも、そういうことに気づかない人が多いのはなぜなんでしょうか。もしかすると、日本は基礎研究で強くならないといけない、というような宗教が、役所も含めて存在しているということですかね。
竹内 それもあるかもしれませんね。